long.001

□夏の日、残像(3)
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埋まらない隙間





ああ、そういえば。と書類処理に勤しんでいたボスの呟きに、リボーンは目線だけで反応する。
何だ、と無言で問われ、部屋の主人は言葉を続けた。



「もうすぐ10年経つなぁ」



何が、とは言わない。



「お墓参り、行ってみても良い頃合いだよね。
一人で淋しい想いをしてるだろうから」



微笑みながら言う彼に、黒い死神は心が痛むのを感じ、らしくないと自分を嘲笑った。

そして思う、
目の前の悠然と微笑む、あの頃から色素が薄い淡い色こそ変わらないが
ずっと長くのびたその髪を指先で弄ぶ彼が『沢田綱吉』を殺し、丁度10年経ったのだと。



リボーンにさえ内密に、九代目に頼み込み、説き伏せ、説得して二年かかったが、なんとか『沢田綱吉』を殺すことの承諾を貰った。


まだ暑さが残る夏のある日、共犯はシャマルと九代目
そして九代目に頼んで手に入れた抗争で死んだ自分と背格好が似ていた死体一個。



「本当に良いのか?」



戸惑いがちに言うシャマルに、苦笑を返した。



「どうして?ずっと望んでいたことなのに」



「・・・・」



もう彼の想いを変えられない事は前から解っていたが、最後の悪あがきも無駄だったようだ。


死体の服を着せ替え、顔を原型が解らなくなる位グチャグチャに潰して、自分の持ち物をモノ言わぬ死体の彼に持たせた。
仕上げに事故に見せるために上から鉄骨を幾つも落とした。


後はシャマルに頼めばコレは『沢田綱吉』の死体になる。

空を仰ぎ見れば、いっそ清々しい位の青空だった。

あの時に、『沢田綱吉』は死んだから、彼はもう『ボンゴレ十代目』なのだ。と
彼と長い付き合いになる黒い死神は思った。


悠然と高価そうな執務机で書類を処理する彼の姿を今自分が見ているのは
十年前に創られた、『沢田綱吉』と『ボンゴレ十代目』の隙間が有ったからなのだろうか。









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