long.001

□夏の日、残像(8)
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消さないで消えないで





久しぶりの日本。
何せもう十年振りだから。
今回の目的はお墓参り。
十年前に死んだ『沢田綱吉』という『存在』に対する弔いが目的

空港で久しぶりに日本の地を踏みしめて思う。


並盛にホテルをとって休む、横を見れば難しそうな顔をしたリボーンが脚を組んで椅子に腰掛けていた。



「変わったなぁ」



人も町も、昔の姿を保って居るものは少ない。十年という月日では、形を保のは容易ではなかったから

こちらで買った安物のワイン(何時も飲んでいるものと比べたら安物だ)を飲みながら思う

そして目を向けた先には不機嫌そうな元家庭教師



「何すねてんだよ、リボーン」



「煩い」



「すねてるだろ、さっきから目を合わそうとしない」



くすくすと愉快そうに笑う
アルコールは回っていない、綱吉はかなり酒に強い



「なんで十年間ほったらかしといて今更墓参りなんて言いだした?」



イタリアで綱吉が日本に行くと言ってからずっと聞きたかったことだ

本当に今更だった。
今迄綱吉が『沢田綱吉』の事を話題にした事もないし、家族や友人を懐かしむ事は無かったから

真剣な目で見ると、綱吉はため息を吐き、椅子に深く座ってワインの入ったグラスを回した。



「丁度良いぐらいだろ」



何が、心の中で諭す
綱吉が読心術も心得ていることをリボーンは知っていた



「十年、区切りが良いだろ」



ワインを机に置いて笑う



「町も人も変わる、十年たてば皆『沢田綱吉』なんて忘れる、誰も覚えてなんかいない。
あぁ、母さんは別だよ?、完全に『沢田綱吉』が消えたんだったら、弔いくらいしてやっもいいだろ?」



少し寂しそうに笑うが、
彼が本当は寂しさなど微塵も感じて居ないことを
彼の心を読む事を許されている死神は知っていた

(あぁ、こいつは
気付かない
あの時お前が捨てた奴らがお前をどれ程思っていたか)



「弔い、か」



苦い思いを押し殺し、呟くと



「お前も弔ってくれるか?」



「あぁ」



短く返事をしてから部屋を出た

離れなければ心を読まれてしまうから

だって情けない。

弔ったら、本当にアイツの中から『沢田綱吉』は消える。それを悲しむ自分が居る

消さないでくれ、なんて



「本当に今更だ・・・・」



一人呟いた言葉は、ひどく耳に残った。










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