long.001

□タイトロープ(7)
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納得がいかない


いきなり怒鳴られ、半ば無理矢理連れてこられた部屋でいきなり抱き締められ、
口を開こうとすればまた怒鳴られる



(理不尽・・・・じゃないか?)


しかし不満に思いつつも
まだスクアーロの腕の中に居る自分が不思議でたまらなかった


何時もならこんな触れ合いは好まない
まして他人に気を許すなどありえない

それを許して生きていけるような世界ではないと、
嫌と言うほど理解しているから



「・・・・離してくれる?」



不機嫌な声色を隠さずに音にする
何時もより擦れた声が出た
体の調子が思ったよりひどそうだ
誤魔化したから注意していても解らないような僅かな違いだったけれど



「お前はっ!!」



また声を荒げたスクアーロはしかしその続きを紡がず
ただ綱吉を掻き抱く力を強めた



暫らく面倒だったから何も言わずに好きなようにさせたが、
さすがにいい加減にして欲しい


何時までも離すつもりが無いらしい腕の力にウンザリし始めた頃だった



「ちゃんと言いやがれ!」



何の事だ、と目で訴える



「具合が悪いなら言え!!」



ずっと見ていたから解った

注意していても見落とすような些細な変化だったけれど


何時もの白い頬が仄かに赤みを増し、
少し、ほんの少し潤んだ瞳に目が奪われた

だから解った





具合が悪いなら言え、と張り上げられた声を聞いて、
寄せられた眉を見ても
綱吉は怒りを表す理由が解らなかった



「お前は誰も信用してねぇのか」



ポツリと落とされた言葉が耳に響いた



「何の事?」



意味が解らない、と言うかの様に見上げてくる瞳には、
ただ本当に理解できない物を見るような色しか浮かんでいない



「お前は誰も信用してねぇのか?」



もう一度問い掛けた
真っすぐにその琥珀を見据えて紡いだ言葉は
果たして答えが貰えるのか

聞きたい、この腕の中の琥珀の答えが聞きたい



「・・・・あたりまえだろ?」


真っすぐに交わっていた視線を外さないまま、

綱吉は迷いもなく言い切った



「何でそんなことを聞くのさ、スクアーロだって知ってる筈だよ?
この世界で、弱さは死に繋がるんだ」



スッパリと言い切る綱吉に、何を言えば良いのか解らなかった


『信頼しろ』?
『俺を信じろ』?
『守ってやる』?


言える訳が無い
相手は自分より長く、この裏切りと血と死臭と嘘で満ちた世界で生きてきた
自分より強く、人の汚さを、弱さを知っている



ただするりと腕をすり抜け、歩き去る琥珀を止めるすべを、
まだ知らなかった




コツコツと廊下を歩く音がだけが響く

あぁ、アイツが信用出来る奴が何時か現われれば良い

欲を言えばソレが自分だったなら


そう考え、コレじゃまるで青いガキの片思いだと、
孤高の琥珀を思って
一人、部屋の中で薄く笑った









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