long.001

□タイトロープ(8)
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(ヴァリアー入隊前、九代目と綱吉の過去話)






時々、真っ黒な思考が自分を染め上げる
歯痒いような悲しいような虚しいような憎いような、ソレ

何かを考えるだけで苦しい
吸った息が自分の肺で、汚ない淀んだ黒いモヤに変わるみたいに

周りの全てが疎ましくて
自分が一番汚くてしょうがなくて



(嗚呼、誰か誰か俺を消しさって
全て忘れさせてくれたら良いのに)






入り組んだ、人が立ち入らない薄暗い路地を
一人の小柄な少年が歩いていた

茶色の髪は好き勝手にあちらこちらに跳ねていて
大きな琥珀色の瞳には薄汚れた壁だけが映っている

息は荒く、体中から殺気を放ち、常に辺りを警戒している


暫らくそうして歩いていたが
ついに立ち止まりくたりと薄汚れた壁に背を預ける
ヒヤリとしたその温度が気持ち良かった
そのままズルズルと重力に従って壁に寄り掛かったまま座り込む
もう立ち上がるのも億劫だ


周りに気配が無いことを確認してから詰めていた息を吐きだす

漸く少しだけ気が抜けたところで
何かが腕を伝う感覚に気が付いた
ふとみれば赤い血が腕を汚している
ズキズキと痛みを訴える掌はひどい火傷をおっていた



(・・・・汚い)



この掌から溢れる紅も、この腐りきった世界も、そこに生きる奴らも

全部全部全部、汚い



(でも、一番汚いのは)



(俺、だ)



クッと拳を握りると鋭い痛みが走る
けれど肉体的な痛みより、今は他のトコロが痛かった



「消えて無くなれば良かったんだ」



ポツリと呟いた言葉は
誰の耳にも入らずにただ闇に溶けて消えるはずだった



「何が消えて無くなれば良いのかな?」



いきなり近くから聞こえた声に
瞬時にそちらを振り向き身構えると
白髪頭のおっとりとした老人がこちらを見ている



「誰だ、あんた」



警戒心あらわに思い切り睨み付けてやれば
老人は目を細め静かに笑った
まるで敵意の感じられないソレに戸惑ったのは少年だった




「綱吉くん、だね?」



けれどもそれも老人が放った一言でまた殺気へと変わる



「あんたは誰だ、何で俺の名前を知ってる」



琥珀色の瞳を鋭く細め、少年・・・・綱吉はその赤く血の滴る手に炎を灯した

燃え盛る炎はチリチリと揺らめき
伝う血を蒸発させ少年の手を焼いていく



「答えろ」



グッと手を握り締めた少年に
白髪の老人は痛ましそうに顔を歪めた



「君は休めるところが無いみたいだね」



「私の所に来るかい?少し休む位の場所と思えば良い」



ゆっくりと優しく伸ばされた手を
その時はまだ取らなかった

振り払ったのは初めての他意の無い言葉に
戸惑っていたのだと気付いたのは
その手を取った後だった











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