long.001

□銀猫物語
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ちょと前まで晴れていた空はほんの少しだけ暗くなって
何時の間にかはらはらと小雨が落ちてきていた



綱吉はそれまで開いていた本にしおりを挟んでから閉じて
空から降ってくる小粒の水滴を
この家で一番日当たりの良い庭に面した和室でぼんやりと眺めていた


今日は珍しく何時も一緒にいる銀色の彼も
いつもフラリと遊びにくる黒や金の子達も居なくて

久しぶりの一人きりの時間を持て余し気味だった



微かに湿気を帯びた空気は少しだけ冷たくて
とても澄んでいるようで、落ち着いたその雰囲気が好ましい



(ああそういえば)

(あの子を初めて見たのも、こんな雨の日だった気がする)



思い出すのは、まだこの家に一人で居たあの時

その時も丁度、こんなふうに読みかけの本を閉じて、空を見上げていた


(その時はまだ雨は降っていなかったんだっけ)





窓から見える景色がとても綺麗に見える
そこまで明るくもないし、暗くもない、夕方にはまだ早い時間帯


一人では広すぎる家には居たくなくて
外の空気でも吸いに行こうか、とふらりと散歩に出た



久々にあてもなくフラフラと、のんびりと空を眺めて深く息を吐いた
たまっていた色んな重いものが抜けていくみたいで



(知らない間に何処かで気が張っていたのかもしれない)



きっと、寂しかったのかもしれない

広すぎる家はシンとしていて、自分がたてる以外の音も聞こえない

日があまり出ていない曇りの時や夕方は
薄暗い部屋や廊下が時々ひどく冷たい印象を与えた
あの家は確かに好きだけど、広すぎるのだ
そしてそれは俺に淋しさを感じさせた



「まいったなぁ」



呟いた声は否に耳についた



(ヤメヤメ、余計虚しくなる)



歩みを止めていた足を、また踏み出そうとしたとき
頭に冷たい感覚がした



「・・・・雨だ」



空を見上げれば小粒の雨がハラハラと降ってきて、地面を濡らしている
雨足も強くはない、雲もそんなに厚くは空をおおっていなかった



(これくらいなら大丈夫だな)



きっと通り雨程度だ、すぐ止むだろうし
わざわざ雨宿りをしなくてもいいか、と思った


小雨の中を慌てる事もなく家に帰ろうとまた歩きだす
雨に濡れているというのに
不思議と気分は良くて



(ああ、そうだ、その帰り道だった)



小雨の中、雨宿りもしないでじっと空を見てる猫を
少し離れた塀の上に見つけた



シャンと背筋を伸ばして、上を見上げる銀色がとても綺麗で
その姿を見たとき、得した気持ちになったのだっけ



(確か、初めて彼を見たのがそれで)



(二回目に声をかけた気がする)



そうだ
ピンと真直ぐに伸びた尻尾に
スラリと伸びた手足に鋭い光を湛えた瞳がとても綺麗で

また会えたことが嬉しくて声をかけた




「懐かしいなぁ」



綱吉は今は家猫となった銀色の彼との出会いを思い出し
一人柔らかく笑った



(彼が帰ってきたら二人きりでゆっくりと昼寝でもしようか)










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