long.001

□梅雨と黒猫
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しとしとしとしと

空から振ってくる小振りな水滴に
それ以外のすべての音が遮断されたみたいに

ただ雨が葉や土を濡らす音と、壁に掛けてある古い時計の針が進む一定の音が
部屋に満ちていた



日本独特の梅雨、と呼ばれる季節がやってきた
雨がつくるジメジメと、時にはしっとりてした空気
音が遠くなったような静かな世界が綱吉は嫌いではなかった



「静か・・・・」



そう呟いた声さえもやはり雨音に溶けて消える



(ああ、ダメだ)



(こんな日は眠くなる)



綱吉はだらだらと畳に寝転がった状態で空を見上げた
雲は厚く、雨は止む気配を見せない




「にゃあ」



沈みかけた意識のなか、聞き覚えのある泣き声を聞いて
綱吉は重い目蓋を開く

目に移ったのは、漆黒の毛と瞳



「・・・・きょーや?」



名前を呼ぶと猫は返事でもするようにニャア、と短く鳴く



「入ってきたの?おいで、恭弥」



この家は何時でも飼い猫が帰ってこれるように
窓などに猫が通れるくらいの隙間を空けてある

こいこい、と手招きをすると恭弥は綱吉のすぐ横に腰を下ろした



「雨宿りしにきたのか?」



近くにきた黒を撫でてやるとその体は何時もより冷たい
けれど雨に濡れてはいなかった



(上手に雨を避けながら来たのかな)



外の雨はまだ止まない
この様子では夜まで止まないだろう



「静かだね、恭弥」



珍しく自分に擦り寄ってきた黒猫にをそっと撫でる
普段はこんなに甘えてこないのだが



「くすぐったいよ」



頬に頭をすり寄せてきた恭弥に苦笑しながら
綱吉は黒猫をやさしく抱き締めた

恭弥は野良猫なのか飼い猫なのか綱吉は知らない
知ってるのは並盛の学校付近に彼がよく居ることや
気位が高く喧嘩は強くて、普段はこんなふうに人に体を触らせる事は無いということ
そして自分には触らせてくれるし、時々甘えてくれる事


もちろん好いてもらえる事は嬉しい
それに何故か自分は猫に好かれるタチのようで
時々遊びにくる猫は何匹がいた



「にゃぁあ」



「ん?」



呼び掛けるように鳴いた猫に視線を向けると
眠そうに目を細めている姿が目に入った



「昼寝しよっか、俺も眠いし」



綱吉そう言って目蓋を閉じる
しばらくして寝息をたて始めた綱吉を見ていた恭弥は
完全に寝入っている綱吉の頬をチロリと舐めると
自分も綱吉の腕のなかで体を丸めて目蓋を閉じた



シトシトと降り続ける雨は心地良く
一人と一匹は寄り添うように眠っていた








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