long.001

□蜂蜜紅茶
1ページ/1ページ





「綺麗な紅い目をしているね」



ふわり、とやわらかく優しく笑んで

彼はストンと座り込み
未だ小さな少年に目線を合わせて
にこり、と笑った


暖かな琥珀と淡い色合いの長い髪が
それまで目に痛い程澄んだ空に溶けて
泣きそうな位に綺麗に目に移った








「ザンザス」



三十路などとうに越してしまった男にしては
やや高めの甘やかな声が自分を呼んだ



「なんだ」



無愛想な短い返事にも気を悪くした様子もなく
琥珀の瞳、金に似た薄い茶色の髪の男は

自分とは対照的に深い色合いを持つ
深紅の瞳に漆黒の髪の少年に手招きをした



「こっちにおいで、お茶にしよう」



男はふにゃりと気の抜けた様な顔で笑い
片手にポットを持ち手招きをする

その様子に多少呆れた様な表情をしたザンザスと呼ばれた少年は
暫らく考えるように男に目をやるが、直ぐに諦めたように溜息をはき

それまで読んでいた書類を机に投げ置いた


広い部屋に向かい合うように置かれたソファに座る
やはり造りの良いソレは少々乱暴に腰掛けた位では軋む音すら上げない

それに挟まれる位置にあるテーブルには
皿に並べられた色々な焼き菓子
温められた二人分のカップと湯気をたてるティーポットが置かれている


辺りに紅茶の香がふわりと広がった



「はい、ザンザス」



男はカップに紅茶を注ぎ
テーブルの上に置かれた小瓶を開けて
その中の琥珀色の蜂蜜をスプーンで一すくいし、紅茶に入れて少年に渡した


ザンザスはソレを一口飲むと



「甘い・・・・」



そう呟いた



「おかわりあるからね」



男は笑ってそう言うと自分の紅茶にも蜂蜜を入れ
ソファに深く腰掛ける


率直で簡素なザンザスの感想も
それが普段わりと無口で案外恥ずかしがり屋
(ザンザスにそのような認識をもっているのはこの男ぐらいだ)
な少年にとっては最上級の誉め言葉だということを理解している男には嬉しいものだった



二人しか居ない部屋には静かで居心地がいい



(いつからだった

この甘さに居心地の良さを覚えるようになったのは)


(この時間が毎日の習慣になったのは)


(こいつの誘いを断れなくなったのは)



(いつから・・・・だった?)



ザンザスはカップに注がれた紅茶を見て
不意に浮かんだ疑問に
内心でくすりと笑って残りの紅茶を飲み干した




(どれもこれも今更な話だ)











.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ