long.002

□『Lost 1』
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曖昧だった境界線が
越えてしまった後から急にはっきりと見えだして


足元から地面が崩れてポッカリと口を開けた暗闇に落ちていく気がした




頭をもたげ始めた思いに気付いてはいけなったのに
気付いてしまったら、もう知らないふりなんて出来ない



(嗚呼、俺はこんなにも)



胸に詰まるばかりで吐き出すことも出来ない感情に
もう泣けもしない俺の代わりに君が泣いてくれた



だから俺は






『 L o S t 』







ぽたぽたと降ってくる水滴がとても綺麗に見えて
思わず手を伸ばそうとしたけど
俺が触れると汚れてしまいそうだ、と
直ぐに腕を下ろそうとしたけど、いきなり腕を捕まれた



「綱ちゃん、もう触ってもくれないの?」



自分を押し倒し、上からこちらを覗き込むように見る男が
小さな声で問い掛けてきた
クッと捕まれた手首に力がこめられる



「ねぇ、やっぱり僕じゃダメ?」



真っすぐにこちらを見つめる目が痛い
いっそ目をつぶってしまいたかったが、綱吉は目を逸らさなかった



「違うよ、白蘭」



「じゃあ、なんで」



「俺が触ったら白蘭が汚れちゃうから」



そう言った綱吉に白蘭と呼ばれた男は眉をしかめる
男の目からもう雫は落ちてこなかった



(綺麗だったのに)



綱吉はどこか場違いなことをぼんやりと考えながら
自分に被いかぶさる男を眺めていた



「汚れないよ、綱ちゃん」



そう言ってそれまで掴んでいた綱吉の手を放し
色素の薄い金がかった茶色の髪を撫でた男は顔を歪ませた



「白蘭は優しいね」



そう言って笑うとまた上から雫が落ちてきた



「ごめんね
ごめんね、白蘭

こんなこと頼んでごめんね」



そう言われて、また涙腺がゆるんだ

違うのに、優しくなんて無い
ただこの子を誰にも渡したくなくて
だからこの子の望みを知った時に、叶えてあげると
協力すると言ったのは自分の為なのに


(だってこの子の味方が僕だけだなんて
そんな独占欲が満たされる話し)


いざ実行する時になって、こんなにも苦しいことは無い、なんて
自分勝手に思ってるのに



「ごめん、白蘭
でも俺はもう嫌なんだ

ねぇ・・・・俺を解放して
俺を殺して、ボンゴレから俺を解放して」



それでも、泣きそうに顔を歪めて
助けも求められなくて、苦しんで
そんな君が唯一他人に求めた救済が死ぬことなら

叶えてあげたい、と



(それで君が少しでも楽になるなら、僕は)



「分かったよ、綱ちゃん
僕がちゃんと殺してあげるから」



だからそんなに苦しまないで

そう言って押し倒した細い細い体をきつく抱き締めれば
綱ちゃんは優しく僕の背中を撫でてくれて


その温もりにまた涙が出そうになった



(嗚呼普段なら涙なんて出ないのに
貴方のコトを想うだけでこんなに涙腺が緩んでしまう)



(貴方を殺した後に
僕はきっと壊れてしまう)



漠然と感じた予感は、必ず実現してしまうだろうと
そんな確信が胸をよぎった








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