long.002

□『Lost 2』
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少しだけ前の話






此処に居るのはとても苦しかった

ボスとしての振る舞いも、感情の殺し方も
命令の仕方、口調、上の者としての態度、威圧感
銃の扱い、敵の殺し方、裏切り者の始末

どれも必要なものだった
全部全部とっくに慣れたし、もう身についてしまったもので、迷いもなかった


でも、何故か

自分の守護者だと言う彼らを見ていると何処か辛かった


そして奇妙な感覚が俺を襲うのだ

深い深い海の底に居るみたいに

溺れてるみたいに息が出来なくて
水圧がかかってるみたいに重圧がのしかかっていた


そんな中で気が付いてしまった

自分の手に洗っても洗っても落ちないくらいに染み付いた
死臭と血の匂い、鉄臭い、冷たい銃の匂い
耳にこびり付いて離れない罵声、悲鳴、奇声



そしてきっと俺はそれを
大切な皆にも背負わせた





『 L o S t -2- 』





思えば、解決方法はとても単純で
だけどとても苦しくて、痛くて、寂しかった



(いっそ気付かなければ、なんて)



なんて浅はかなのだろうと自分自身にまた失望する



最初から、気付いてたのかもしれない
大切な大切な皆をこんな危険で冷たくて暗くて血に濡れた世界に引きずり込んだのは
他でもない『ボンゴレ』である俺の存在だったのだと

(俺のせいで、皆傷ついた。
危ない目にもあって、
皆、きっと夢だってあった
やりたい事だってあった
こんな血濡れたものなんかじゃない未来があった)



(それを俺は奪ったんだ)



俺が皆に指輪の破棄を命令したのも
争いの火種になるから、なんて理由だけじゃない


証さえ、あのボンゴレリングという守護者の証が無くなれば
彼らをこの本当なら関わらずに済んだ世界に縛るモノは
ボンゴレである自分の存在だけになると思ったから


俺が皆はもう守護者じゃない、と言えば
彼らは解放されたんだろうか



(きっと無理だ)



きっと彼らは解放されない
このボンゴレという檻から
だって皆は優しいから、俺のそばに居てくれると言うのだろう
そしてボンゴレの守護者という位置は、彼らが抜けることを許さない



でも一つだけ方法があるとするなら
死ねばいいのだ、俺が
彼らが護る、彼らを縛る『ボンゴレ十代目』が

自分が死ねば彼らが守護者である証も必要もなくなる



そう思えば思うほど俺は自分自身が憎くて仕方がなかった


ジリジリと迫ってくる不快感と、追い立てられるような感覚
苦しくて辛くて寒くて


それでも耐えられたのに、耐えていられたのに


彼は俺に近づいてきた
ボンゴレじゃない、同盟ファミリーでもない
確かに敵だったのに、彼は俺を想い泣いてくれた



それで少しでも救われた筈なのに
やっぱり俺は自分自身が許せなくて


そして俺は俺を想い泣いてくれたあの人さえ巻き込んで
そして、




『ねぇ、白蘭、俺を殺して』





その日俺は俺の為に泣いてくれたあの人に
『ドンボンゴレ十代目』の殺害を頼んだ



(そう言った俺にまた彼は泣いてくれたけど)


(こんなに汚れた俺にはその涙は綺麗すぎて
もう触れてはいけないものに思えた)









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