long.002

□『Lost 3』
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何もなかった
大事な何かをごっそり抜き取られたみたいな焦燥感


もう動かない愛しいあの子にそっと触ってみるけど
もう冷たい体はどんな些細な反応も返さない



(綱ちゃん)



もう覚めない眠りに付いてしまった人の青白い頬を撫でる
横たわっている彼の顔は悲しんでいるように見えて
もう痛まないと思っていた胸が悲鳴をあげる



「綱ちゃん、綱ちゃん、綱ちゃん」



いくら呼んでも無駄なのに

殺したのは僕なのに



(この子が死んだのを認めたくないないなんて)



それでも、ようやく彼は解放された
ボンゴレから解放された



(ねぇ、綱ちゃん)


(綱ちゃんはそれで幸せ?)



「綱ちゃん、ごめんね
その日のうちにボンゴレに送るって約束だったのに」



「でも、一日だけ僕に頂戴」



分かってる、返してしまえばきっと二度と会えない
彼の体にさえ触れることもかなわなくなる



彼の願いは叶えたけれど
自分の願いはもう永遠に叶わない



(笑ってほしい、なんて)



何で、一番大切な人のぬくもりを、この手で奪うなんて

段々と冷たくなる体、光を失う瞳を目の前に
気が狂いそうだったのに



感情のままに真っ白なシーツの上の動かない体を掻き抱いた



(苦しかった筈なのに
不安だった筈なのに
寂しかった筈なのに)



彼は笑ったのだ、最後に
最後の最後にごめんね、とありがとう、と言って
笑ったんだ



(そんなに優しい君を追い詰めたのはボンゴレで
でも君が死んでまで守りたかったのもボンゴレで)



「恨まれても良いから
君をさらってボンゴレを潰してしまえば良かった」



後悔は次々に浮かんではたまってきて
まるで溺れていくみたいに息苦しくなる



(君もこんな感じだった?)



押し潰されて、後悔に溺れるみたいに
誰にも助けてなんて言えなくて
やっと言えたのが殺して、なんて



「ごめんね」



抱き締めた体をまたゆっくりとベッドに戻した
真っ白なシーツに溶けるくらいに青白い肌が目に痛い
その琥珀色の瞳はもう開くことはないから
瞳の色とよく似た髪だけが彼の唯一の色彩みたいに感じる


少し乱れてしまった髪を指ですいて整えて
後はただその姿を目に焼き付けるように眺めていた



後少ししたら彼を白い白い棺桶に入れなくてはいけない
(彼には黒より白が似合う)



「ねぇ綱ちゃん」



棺桶には白い花もたくさん入れよう

それが最後の贈り物になってしまうのは嫌だけど



「もう少ししたら、ちゃんとあそこに帰すから」



(だから後少しだけ)



(僕の傍で眠っていて)









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