long.002

□『Lost 4』
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さよならと君に告げてその体を花を敷き詰めた白い棺桶に入れた

もしかしたら彼に触れられるのも
もうこれが最後かもしれない



辺りに漂う花の匂いは少し強すぎて
くらくらと目眩すらしそうだ
だがそれでも、その中心に居る彼は何の反応も示さない
(それは当たり前のコトだけど)




(嗚呼、いっそこのまま世界が閉じれば良い)






『 L o S t -4- 』





後は蓋を閉めるだけ
それだけのことなのに、手が中々動かない



(体は正直だな)



まるで重りでも付けてるみたいに自分の手が重く感じる


胸が痛い
体が重い

でも



「綱ちゃんの望みなら叶えるから
約束は守るから」



だってこの腕の重みは俺の罰



(君の唯一の願いを聞ける、唯一の人間に成れるなんて)



(あの時はその奇跡みたいな幸福感が胸を満たしていて)



今思えばなんて愚かしいことだろうか



「でもきっと僕は何度でも
同じ選択をしちゃうのかもね」



ごめんね、と小さく呟いて彼の頬を弱く撫でた

触ることに後ろめたさと罪悪感を感じる自分を嫌悪する



「ごめんね、綱ちゃん」



そして重い重い蓋をゆっくりと閉めた



あんな所に君を帰したくなんてないけど
君がボンゴレである自分を殺してまで守りたかったものが、どんなものかは知らないけど


でも、君が守りたかったものが
君の大切なものなら

なんでその大切なモノが君を追い詰めた?



そんなふうに、色々な想いが浮かんでは消えて
零れた涙すら自分のためみたいで

嫌だった


そうして彼を帰した後に
残ったのは真っ白なシーツと花の香だけ









なのに、



「何で」



吐き出すような声だった
握り締めた手の爪は皮膚を破り、肉に食い込む

流れ出た血がまるで自分の中の溢れだす憎悪のよう


真っ黒な棺桶を前に真っ白な男は
ただ立ち尽くしていた


時間が経つ分だけ白蘭の足元には
彼の手から伝い落ちた赤が広がる


それを気にも止めずに、男は棺桶をじっと見つめていた



彼が懐かしいと呟いていていた
彼の故郷だった町の森の中で見つけた彼の棺桶は黒



その漆黒の棺に光る装飾はとても見覚えのあるエンブレムと
彼が消したかった、自分が殺した]の文字



「ねぇ、綱ちゃん」



「なんでこんなものに入れられてるの?」



ゆっくりとソレに近づいて黒い蓋を撫でた
手から伝う真っ赤な血が触れた所に後を残す



(君は死んでもボンゴレに縛られる)


(ボンゴレという組織は君を十代目としか認識しない)



鈍く光る]の文字に自分の中で何かが音を立てて崩れた気がした



(嗚呼、復讐してやる)



(ボンゴレなんて壊してやる)



棺桶に寄り添った男は歪んだ笑いをその顔に浮かべていた










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