long.002

□橙に染まる空
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橙 に そまる空








上から降り注いだ透明な水は
足元を伝うときには赤く変色していた



「・・・・グロテスク」



小さな呟きが嫌に耳に残る

バスルームの中で綱吉は詰めていた息を吐いた
シャワーを頭から浴びているため湯気で視界が悪い
けれど、この湯気に満ちた空間が割りと好きなのだ

あらかた血を洗い流した綱吉はシャワーを止め、湯がたっぷり入った浴槽に足を浸けた
丁度良い湯加減に気分が良くなる
そのまま肩まで湯に浸かると、浴槽から溢れたお湯が排水溝に流れていった



(あ〜、終わった・・・・)



何時も仕事が終わると一番に血を流すのが週間になっているためか
この湯気で満ちた空間に居ると、仕事が終わったのを実感できた


(・・・・なのに)



「ツナちゃーん!お帰り!!」



「何でお前は俺の大事な時間を邪魔するかなぁ、白蘭」



バァン、と勢い良くバスルームのドアを開けて入ってきたのは
銀髪の目元にタトゥーを入れた男だった



「え〜ツナちゃん依頼主に対して冷たくない?」



「ただの依頼人が殺し屋の入浴邪魔するなよ」



「え〜」



「・・・・今すぐ出てかないと今後一切仕事受けないからな」



いい加減に白蘭の相手が面倒臭くなった綱吉がそう言うと
白蘭は渋々ながらもわかったよ、とぼやきながらバスルームを後にした

カチャン、と扉が閉まるのを聞いて綱吉は肩の力を抜いた


(あ〜、やだやだこれも一種の職業病かな)


自分の一番使い慣れた武器、あのグローブを手放している時には
嫌でも気が張ってしまうのだ
もちろん、それこそ職業柄丸腰で居るときなんて無い
現に今だって隠しナイフ、毒の仕込まれた針、強化ワイヤー
湿気の有るところでも使用できる武器を手の届く所に隠し持っている


(でもなぁ・・・・)


(・・・・・・・・)



うだうだと考えることに疲れた綱吉はそこで思考を止めた
早く血の匂いを消すことに集中する


(血なまぐさい殺し屋なんてベタすぎて笑えない)






ピチャン、ピチャン
ドアの外から微かに聞こえる水音に耳を澄ました



「ツナちゃん、早く出てこないかなぁ」



追い出されたばかりだし、先程彼の脅し文句もあって中に入れない
それに先程の言葉がただの脅しではないと知っている手前、待つしか無いのだ


(ツナちゃんけっこう頑固だし)


彼はなかなか自分の言葉や意志を曲げないのだ
仕事面では特に

綱吉との関係が依頼する側、された側でしかない白蘭にとって
それが切れるはすなわち綱吉との繋がりが無くなるということだった
それだけはダメだ

彼は自分がいくら専属になってと頼んでも、首を縦には振ってくれなかった
いくら今自分が一番の得意先であっても
彼はあっさり縁を切るだろう
彼が断るだけで、実際は彼に舞い込む仕事など腐るほど有るのだ
今は自分が彼に会いたい一心で、質の良い仕事を頼んでいるだけにすぎない



(あ〜ぁ、僕だけの物になってくれたらいいのに)



窓から外を見れば夕焼け
まるで彼の様で、手を伸ばした
(手は届かない)








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