long.002

□黄泉鳥の惨痛
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黄泉鳥の さん つう






ソレ目がけて思い切り拳をねじ込む
かたい感触がしたと同時に
グシャリ、と骨の砕ける音が響いた

吹き飛ぶ人、飛び散る血、手に残る感触
全てがあまりにも生々しい
それでも自分は、このグローブを使い続けている



(嗚呼、そういえば)



依然はまったく銃火器を使わなかった自分に対し
『銃が使えない殺し屋』などという噂がたったことがあった

それを聞き付けたらしい昔はそこそこ名の知れたらしい殺し屋が
俺に勝負を挑んできたことがあった
勝負内容は銃での殺し合い
昔は銃の腕をかわれ、仕事も多かったようだが、最近は落ちぶれたと噂を聞いていた男で
どうやらそいつは俺に仕事を取られたと思い込んでいたらしい
馬鹿な奴だ、自分の非を認めずに突っ掛かってくるなんて

自分の勝ちを確信していた男は、ギャラリーまで集めていたから俺の機嫌は下がる一方で
開始の合図とほぼ同時に両目と脳天、心臓に一発ずつ打ち込んでやった
相手は銃を構える前に、悲鳴すら出さずに倒れた

その時居たギャラリーが広めたのか、『銃が使えない殺し屋』という噂はそれ以来一切聞かなくなった

けれどまた違う噂がたった

『ターゲットを直ぐに殺さず、なぶり殺して楽しむ殺人狂』

馬鹿げた噂だと思いつつも、今回はさして依頼に差し支えるものでもないので放っておいたけれど
(噂はわりと直ぐに消えた人の噂もなんとやら、だ)


それでも自分は今だにこの武器を使い続けている



(俺はまだ彼の面影を手放せない)



俺には、育ての親がいた
気付いたらスラムで一人、盗みや殺しでその日の糧を得て生きていた名前もない俺に
生きるすべと居場所と名前をくれた人
彼と俺は相当似ていたらしく、よく兄弟か、と聞かれた
(男の実年齢で考えれば親子の方がしっくりくるが、男は度を超した童顔だった)

俺にとって彼は親であり、兄であり、友であり、師であり
そしてそのどれでもなかった

もっと近しい、半身のような、まったく違う他人のような
言い表わせない存在だった


彼の得意な武器もグローブで、Tの装飾が施されたそれ一つで戦っていた
一緒に暮らし初めて数年後、俺の十歳の誕生日に
彼は]の装飾がされたグローブを送ってくれた
それからまた数年後、彼は突然姿を消した

俺は彼を見付けようとはしなかった
ふと、猫は自分の死体を見せないように
死期を悟ると姿を消す、というのが頭をよぎったからだった



(それに、何となく知っていたのだ)


(彼がもうながくないことも)



自分の感は昔から良くあたる
彼はその直感はとても大切だから大事にしなさい、と言っていた


だから、本当は解っていた
このグローブの]のエンブレムが表しているのは俺の年なんかじゃなかったのも
彼と俺が赤の他人でないことも
それに気付くべきでなかったのも


チリチリと燻るような胸の痛みに空を見上げた
何処かで鳥の鳴き声が響いている



(哀しげな、声)










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