long.002

□緑雨と深海魚
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緑雨と し んかいぎょ







空から振ってきた雨粒がポツポツ、と部屋の窓ガラスを叩く音がした
空を見上げれば曇り空
雨の勢いは少しずつ増している様で
音は少しずつ大きくなってくる



「雨は嫌いだなぁ」



ポツリとあの人が言った言葉に私は首を傾げた



「どうして?」



私がそう聞くと、彼はなんとなくね、と言って笑う


(なんとなくなんて嘘
知ってるもの、私
雨はボスにとって何か思い入れがあるんでしょう?)


(それが何なのか知りはしないけど、確信ならあるの
だてにずっと貴方を見てないわ)



「私は好きよ、雨」



「ふ〜ん、そういや骸も好きだって言ってたな・・・・
髑髏はなんで雨が好きなの?」



「ボスに会えた日も雨だったから」



そういうとボスは目をパチリと大きく開き
やさしくやさしく笑った

私は彼のこの笑顔がたまらなく好きだ
琥珀色の瞳を優しく細めて、その薄い唇が弧を描いているのが大好き

私もついつられて笑ってしまった
すると彼は優しく私の頭を撫でてくれた
まるであの時みたいに



私と骸様は、あるマフィアに人体実験のために人形の様に扱われていた
そのマフィアを潰して、私たちの面倒を見てくれたのがボスだった
彼はお礼に何でもする、と言った私たちに依頼だったからいいんだよ、と頭を撫でてくれた

でも、私たちの面倒を見てくれたのは依頼なんかじゃなく、彼の優しさで
私は彼が大好きだった



そして彼は今でも私たちの様子を見に来てくれる

そしてその回数は、骸様より私の方が断然多い


(理由は簡単だ)


(私が女だから)


(骸様より私の方が断然弱いから)



骸様は強くなってボスの傍に近づくコトを選んだ
既に内蔵のほとんどを奪われ、手術をしたものの
体が弱い私はどうしたって彼の隣に立てるほど強くはなれないと悟り
守られる存在でいることを選んだ

私だって自分の身を十分守れるくらいには戦える
ただ彼の前ではあえてそうしないのだ
弱者であればあるほど、彼は傍に居てくれる
彼はとても優しいから、見捨てることなど出来ないのだ



「髑髏、雨もあがったしそろそろ帰るよ
骸にもよろしく言っといてね」



暫らくの会話の後、ボスはそう言って立ち上がった


(嗚呼、もう行ってしまうの?)


どうしたってこの時間は寂しくてしょうがないのだ



「また来るからね」



そう言って少しうなだれた私と目線を合わせて困ったように笑う彼に一つ頷いて
彼を見送った


今から『次』が待ち遠しくて仕方がない


(きっと私は魚なのだ)


(彼という水がなくては死んでしまうのだろう)


(そしてきっと、私以外にも彼を欲している人は沢山居る)





もう雨があがってしまった空を見て、彼を想った




(ほら、まるで空を見上げて雨を待つ魚みたい)









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