long.002

□鵠沼サーフ
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綱吉(マフィアの子供)
ビアンキ(腹違いの姉)












空が見える

灰色の壁、薄暗いその場所で
ズルズルと壁づたいに座り込んで見上げた空は
分厚い雲に遮られていたせいかやけに低く感じた


いつか遠い昔母親が綺麗だと見上げて笑っていた青空は
どんな風だっただろうか



(馬鹿らしい)



綱吉はふるふると頭を降って空を見上げるのを止めた

こんな薄暗く汚い路地裏ではあの美しい思い出に閉じ込めた色は望めない
ぼんやりとそう感じたから

思い出は美化されて残るものだと言われているけれど
確かにあの時見た空はもっと高くて綺麗だったから



ふと手を見ればさっきまで俺を追いかけてきた奴等の
赤黒い血に汚れた自分の手が視界に入った



(ああ、しつこく勧誘してきたから殴り飛ばしたんだっけ)



母に教わり白と黒の美しい音色を出す鍵盤を弾いていたのは・・・・
最後にそれに触れたのが最近ではないことだけは分かった


初めは何も知らない子供で居られた
自分の勘だけが危険を教えてくれるギリギリの綱渡りを繰り返して
そして自分の血の価値を知った



(だからって)



(しつこいんだよ・・・・)



利用しようとするもの、排除しようとするもの
伸ばされる手は多くてもその意味はどちらかに絞られる



「面倒臭いなぁ・・・・」



壁にもたれ座り込んだまま息を吐いた



「ツナ、こんなところに居たの」



その声に前を見れば
長髪の美しい女性が立っていた
顔も似てない、腹違いの姉さん
この人だけは俺を利用しようとも排除しようともしない



「ねぇ、姉さん
俺日本に行ってくる」



「そこに居る人が仕えるべき人か自分で見てくる」



たった一人、仕えたいと
この人の力になりたいと思わせてくれる人を探す
最後の賭けだと笑った綱吉に
ビアンキはそう、とだけ返して空を見上げる綱吉を見つめた



(可愛い可愛い可哀想な私の弟)



あの血を色濃く継いだばかりに
たったひとつを得て沢山のモノを手に入れられなかったから



(私にも同じ血が在ればよかった)



そうすればもっと近くで寄り添えただろうか



(嗚呼、どうか)



(この子の望むモノがそこに在るように)



空を見上げる少年を目に焼き付けた
いまだ分厚い雲が覆う空は灰色
でも彼は雲の向こうの青空を知っているんだろう












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