long.002

□江ノ島エスカー
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沢田綱吉(風紀委員長)
雲雀恭弥(並盛中一年)










最初に彼を見たのは春の事だった



桜がその花びらを目一杯に広げて
風に吹かれる度ハラハラとその短い盛りを終える

視界が薄桃色に染め上げられる中で
何にも染まらずにハッキリとその存在を主張するような黒と
陽に透けて淡く、桜吹雪の中で
目を離せばすぐに見失ってしまいそうな茶色の髪の、そのアンバランスさが

ただただ強烈に僕の記憶の中に焼き付いて忘れられなかった



(あの時から僕は彼に捕われたままだ)



けれど面白いもので、再開は唐突に、思ったより早くやって来た







「君、新入生だろ
下校時間は過ぎてるよ」



ぼんやりと教室に残って居るといつの間にかそんな時間になっていたらしい
雲雀が面倒臭げに視線を向けて目に入ったのは
指定の制服ではなく真っ黒の学ラン



(ああ、風紀委員か)



この学校は教師や学校長より権力を持った風紀委員という組織があるらしい
揃いも揃って黒の学ランを着込み
髪をリーゼントにセットしているので直ぐに見分けがついた



コツコツと聞こえてくる足音で
風紀委員が近づいてくるのがわかる
けれど雲雀の視線はまだ彼の足元から上がらなかった



「ねぇ、聞いてるの?
俺は無視されるのが大嫌いなんだよ」



その言葉と同時に、ヒュンと何かが飛んでくる音が聞こえた
そこで初めて顔を上げた雲雀の目にうつったのは

あの桜の中で見た黒と茶色の

驚きの次に頭部を襲った鈍い痛み、そこで意識はブラックアウト



気が付けば彼はもう居なくて頭に残ったコブと
下校時刻を過ぎた時計の針だけが彼が居たことを示していた



「・・・・見付けた」



雲雀には自信があった
あの時風紀委員を無視したのも
危害を加えられそうになっても返り討ちにする自信と実力が有ったからだ

そして打たれ強い自分を一撃でのした人間が居ることと
それが入学前の春から探していた人物となれば
雲雀の機嫌は上がっていった



「取り敢えず明日クラスメイトでも聞いてみるか」



先ずは名前だ、と雲雀は上機嫌で暗くなった教室を後にした







「懲りないね」



翌日の放課後、彼はまた下校時間の見回りをしていた
昨日殴り倒した生徒が懲りずに残っていることに呆れたらしい



「貴方、沢田綱吉って言うんだ」



彼の名前は直ぐにわかった
クラスの奴等に“学ランだけどリーゼントじゃない風紀委員”を聞いたら
顔を青くして名前と風紀委員長だと言うことを教えてくれた



「ねぇ、僕も風紀委員に入れてよ」



そう言ったら彼は呆れた様に笑った

絶対手に入れてやる












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