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□■本山ノ井連載■
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1話:珍獣を連れた隣人


《入学おめでとう》の段幕がぶら下がった高等部の正門を通っても、そこに感慨深いものはなにもなかった。
持ち上がり組としては行動拠点が少しズレただけにしか過ぎないし、取り敢えずクラスを確認しようと俺は人だかりの後ろに立って、自分の名前を一年四組の男子、後ろから二番目に発見する。
(あーあ、野球部居ねぇかなー)
持ち上がり組中等部レギュラーとして共に頑張ってきた和己と慎吾は仲良く六組に名前が載っている。
中等部から野球部に入るのは俺たち三人だけだった。なんと云っても強豪校である桐青には外部から強いのが集まってくるし、スポーツ推薦なんてのもある。
中等部レギュラーだった俺たちでも、ベンチ入り出来るか難しいのが実際の現状だ。
(俺だけ仲間外れかよ〜)
諦めずに高等部でも野球を続けようと誓ったたった二人の部員とクラスがわかれてしまって、俺のテンションは絶賛急降下中だ。
しかも俺だけ一人ってのも情けない。
(別にいいけどさー)
小さく溜息を吐いて更に後ろに出来ていた人垣を掻き分け、俺はのろのろと昇降口へ歩き出した。



(な…んつーこった……)
愕然としながら壁に寄り掛かっても、顔には笑顔を張り付けたままで雑談に興じているポーカーフェイスな俺!
教室に行って気付いたんだけど、なんと中学時代に仲が良かったクラスメイト及び他クラスで交流を図ってきた友人たちが一人も居なかったのだ。
これはまさにアレだ。持ち上がりにも関わらず、一から人間関係をつくっていかなきゃならない現状ってヤツだ。
(…く、雲行き悪うぅー)
しかも何故かほとんどが外部生ばかりのクラスで。俺は数少ない顔見知りな持ち上がり組とつるんで、始業のチャイムが鳴るまでだらだらと話していた。
ホームルームの後には内部生にはほとんど興味がない入学式が待っている。

「本山はさー、やっぱり野球部入んだろ?中学でレギュラーだったじゃん」
「甲子園かあ…ウチなら圏内だよな〜」
「そりゃ高校でも続けるけどさ、なんかもー三人しか残ってねぇんだよ。高等部の練習はキツいみたいだから皆やめちまってさあ」
「え、誰が残ってるんだ?」
「河合と島崎」
「河合って主将だったヤツだよな?慎吾も続けるんだー」

ただの顔見知りな内部生同士と云っても、端から見れば仲良しな余裕オーラを纏っているように見える。
なんだかクラスで浮きまくりな俺たちを余所に始業五分前のチャイムが鳴って、なんとなしにそれぞれ席に着くとまだ隣りの机が空席だった。
(どんなヤツがくるんだろ…)
黒板に書かれた座席表には番号しか書かれていないので、まだ見ぬ隣人については未知数のままだ。
雲行きが怪しい現状の打開策として、可愛い外部の女子でも来てくれたらばっちりなのに。
山中さんだか吉田さんだか渡辺さんだか……それともマッチョな体育会系な女子が来て、コキ使われたり虐げられたりするそんな運命が待っているんだろうか…。


そんなことを考えている内に始業のチャイムが鳴り始めてもしや入学式から欠席かと思っていたら、後ろのドアからすーっと誰かが入ってきて俺の隣りに座ったのがわかる。
教師が入ってきたのと同時に鞄を降ろしたそいつは、完全に抜け目なく遅刻ギリギリの技をやってのけた。
(気配…なかったよな…すげえ!)
ちらりと横目で見ると少し大きめのブレザーに黒いさらさらのショートヘアが低い位置にある。
ちょっとドッキリしながら視線を落とすとそこには……
(え、…え!男!?)
自分と同じズボンを纏った脚が見えて俺は思わず教室を見渡した。
右側が男子で左側が女子……これは固定だ。
今の私立じゃ女子用のズボンがある女子高が増えてる…って話も聞いたことがあるけど、此処は共学だし今までそんな女子を見かけたこともない。
(え…ちょっ、待ッ)
一人で焦っていると連絡事項を話終えた教師がなにかの紙を配り出した。


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