泉鈴の荒井センチメンタル小説
□赤糸はもう掴めない。
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俺には、好きな奴が居た。
そいつは、同じ学年の同じ部活の奴で。
部活中に、ふと視線をやればアイツは真剣に練習に打ち込んでいて。
その姿がたまらなく愛おしかったりする。
そう、これが恋なのかなって気づいた時はメチャクチャ焦った。
…だって、男だし。
それでも、アイツに会える貴重な部活動の時間とか、そういうのにいちいちドキドキしてしまう俺は、間違いなく恋しているのかもしれない。
「荒井、なんか最近調子いいんじゃない?」
部活中、不二先輩がニコニコしながら言ってくる。
不二先輩は、実力があって、優しいし尊敬できる先輩だ。
「レギュラー入りも近いかもね。」
「えっ…」
笑顔で言う先輩。そのまま、サッと自分の練習へ戻っていった。
―レギュラー入り。
その言葉が、俺の頭を離れなかった。
レギュラー入り。
…そうだよな。
「…レギュラー入りすればもっと海堂と…」
「海堂がどうかしたの?」
「うわぁっ!何で居るんですか先輩…!」
独り言かと思ったのに、後ろに何故か不二先輩がいて面食らう。
…今の聞かれたっぽいな。
「い、いや何でもありませんけど…」
「荒井、もしかして…」
ジッと見つめられて心臓が高鳴っていく。
「な、なんでもありませんから…」
そう言うと、すうっと双眸が細くなった。
怪しい笑みを浮かべる。
「そ、ならいいけど?」
そう言って今度こそ練習に戻っていく。…はずだ。
あーびっくりした。
俺がホモというか、同性愛者というか、そんな風に思われるのは嫌だからな。
そんな青春中の俺だけど、ある日現実に引き戻されるような場面に出くわしてしまったんだ。
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