泉鈴の荒井センチメンタル小説


□赤糸はもう掴めない。
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「お疲れ様でしたー」







部活終了後の帰り道。
俺は普段通りに帰路を歩いていた。

家に着くまでに、今日の部活の反省点とかを考えるのが俺の日課だったりする。


今日は自分でも文句ないくらいに調子がよかった。
このまま行けば…




「あ…?」



思わず声が出てしまった。
俺の視線の先には、ふたりで帰ろうとする桃城と海堂の姿があったからだ。



あのふたりって仲良かったか…?
むしろ逆な気がする。
だったら、どうしてこんな事になっているのか。


普通に気にせず流せばよかったのだろうけど、気になるので俺は後をついていく事にした。

こんな俺は、相当暇人なのかもしれない。








つけていてわかったのは、ふたりの向かう所が海堂の家だという事。
多分、桃城は送っている身なんだろう。



辺りはすっかり夕日に包まれている。道路も、車も影も、全て橙に染まっている。

この時間帯は、ここの通りは全く人気がなくなるんだよな。だから違う空間に来たみたいで、少し幻想的。


ここの角を曲がれば、確か海堂の家に着く。

桃城はまさか海堂の家に入るのだろうか?



少し胸がズキリとした。




…というか、俺がふたりをつけていた意味はまったく無いって事に、遅いながら気づいてしまった。


つけたからって何が始まるわけでもないしな。うん。







そう思って帰ろうとした時、ふと視界に飛び込んできた光景。






桃城が海堂をギュっと抱き寄せて。そのまま唇が重なった。






海堂は即桃城を突き飛ばしたから、ふたりが触れ合っていた時間はかなり短いけれど。
それでも、とても幸せそうに見えた。


そして桃城は海堂に軽く手を振ると、踵を返して元来た道を歩き始める。





「…ぁ」





それは、思考が上手く働かな立ち尽くしていた俺とあっさり鉢合わせしてしまった。





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