学園小説

□なでしこ症候群
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「俺…いえ、ぼ、僕はですねえ……えっと、環君の従兄弟で…」




食堂の隅にある畳の間で正座しているのは、パンツ一丁という情けない恰好の俺。
両膝の上に拳を置いて背筋を伸ばし、しどろもどろに言い訳を口にしている。


言い訳? 何にも悪い事なんかしていないのに…! 本当、泣きたい気持ちだ。男だって、涙が出そうになる時があるんだって、今まさに痛感している。

俺に好奇の目を向けてくる連中の中には、さっき、風呂場で俺の唇を奪おうとしていたもやし男もいた。
もやし男は、俺の1つ上の先輩だ。他の連中も、俺と同じ寮に住む仲間達だ。



でも、俺だって事に気付いてない。






「先輩だろ?」






不意に。
俺を見下ろす連中の中から、声が上がった。

俺の心臓が、思わずドキンと跳ねる。




「環先輩の従兄弟って……何言ってんの? 環先輩だろ?」

「テツ……。お前、俺が分かるのか?!」

俺は、俺の正体をいとも簡単に見破ってくれた普段は全く可愛いげのない後輩を、信じられない気持ちで見つめた。



「えっ、嘘だろ? そんなわけねえだろ!」

「冗談だろ?」

信じられないのは他の連中も同じのようで、口々に否定の声を上げ、俺の身体を上から下までそれこそ舐め回すように見てくる。




その反応は当然だ。
俺だって信じられないんだから。



「この子が、環…?」



あまりにもじろじろと連中が見てくるもんだから、裸でいる事なんか慣れているはずなのに、俺は何となく恥ずかしくなり、そっと目を伏せた。





「あんま、見るなよ…」



「「「!」」」



その時の奴らの顔ときたら!


たとえようもない悪寒が背中を駆け抜け、その正体が何なのか突き止める間もなく、どこからかTシャツが降ってきた。

「わっ!」

「早くそれ着て」

見れば、自分が着ていたTシャツを脱いだテツが、ぶっきらぼうに背中を向けて立っていた。

「ああ…サンキュ」

なぜ不機嫌になってるんだ? と疑問に思いながらも、そのTシャツに袖を通す。
やっぱりというか、案の定というか、Tシャツはぶかぶかで、俺の尻がすっぽりと隠れてしまう程の大きさだった。
俺は普段、この後輩とTシャツの貸し借りなんかは当たり前にしていた。
サイズがほとんど変わらなかったから。




「………で、どういう事なんですか?」
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