学園小説
□なでしこ症候群
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俺のすぐ目の前にイスを置き、説明を求めてくるその静かな声に、俺は思わず声を荒げていた。
「聞きたいのは、こっちの方だ! どうしちまったんだ、俺の身体は?!」
柔道一家に生まれ、物心付く頃から柔道一色で過ごしてきた俺・岸裏 環(きしうら たまき)
親元を離れて、柔道の名門である城智学園(しろぢがくえん)に入学し、2年生になってからは副主将として柔道部を支えてきた。
186センチの身長と、それに見合った筋肉をもち、柔道家らしい隆々とした肉体をしていた。
まさに、男の中の男。
誰かを押し倒す事はあっても、その逆は試合の最中だってないはずだった。
今日までは!!
それなのに。ああ、それなのに!
俺は、肌の白さは代わらないのに、太さは1/3にになってしまった自分の腕を持ち上げ、ぐっと言葉に詰まらせた。
なんだ、この貧弱な腕は。
ありきたりなボディビルダーのポーズを作ろうものなら、いたるところに筋肉が隆起して、思わずうっとりする程だったのに。
厚かった胸板も、洗濯板のようになり、筋肉のきの字も見当たらない。
おまけに……。
「なあ、俺はこんな顔だったか?」
まさか、鏡で自分の顔を見て腰を抜かす日が来ようとは!
朝起きて、洗面所の鏡に映っていたのは、色の白い、病弱そうな顔色の少年。
でも、ぱっちりと開いた二重の大きな目に、瞬きをしたら音が聞こえそうな程の、長くてカールした上下の睫毛。
唇はなぜかほんのりと桜色で、常に濡れている。
憂いを帯びた顔っていうのは、きっとこういうのを言うんだろう。
そう。鏡の向こうには、信じられないくらいの美少年がいたのだ。
何だ、こいつは? 誰だ、こいつは?
まさか自分だとは思わなくてじっと見つめると、鏡の中の美少年も、同じように驚いた顔でこっちを見つめていた。
「………………………………えっ、てか、俺?!」