ML小説
□ラストキス
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『ラストキス』
☆プロローグ☆
「社長、NY市警のホーリー警部補が来られましたが、いかがされますか?」
「社長、午後からのパーティーの件で確認したい事が…」
「第1秘書室からお電話です、社長」
そのオフィスは、いつものように賑わいを見せていた。
眠らない大都市。
成功を夢見、一攫千金を狙った人間達の蠢く街。
高層ビルが立ち並ぶオフィス街にあって、一際大きな外観のそのビルのボスである男は、美麗な顔を不機嫌そうに歪め、社長室へと足を進めていた。
男が眉を潜めていても、部下達は忙しそうに報告を続ける。
それは、男が常に不機嫌な顔以外を他人に見せた事がないからであって、それが男の普通であったからだ。
「先にホーリー警部補にお会いしますか?」
男のすぐ後ろを歩く秘書と思われる女が、抑揚のない声でこれからのスケジュールを確認する。
「……」
しかし、男は無言のまま。
ただちらりと一瞥を返すのみ。
「…分かりました。そのように」
しかし、それもいつもの事。
女はその一瞥だけで男の真意を読み取り、他の部下達に指示を飛ばす。
「そのまま警部補にはお待ちいただきます。社長、こちらへ…」
すぐにやって来た社長室直通のエレベーターに乗り込もうとした、瞬間。
そう、そのまさに瞬間。
何の偶然が働いたのか。
今まで気にもとめた事がなかったのに、男はエントランスに流れていたネットニュースに目を向けた。
神のいたずらか。
運命の糸は確かに存在していたのか。
「!!」
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