拍手御礼小説
□拍手文5〜高史×要
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「ただいま〜」
玄関の引き戸をガラガラと開き、家の中にいる人物に声をかける。
「帰って来たよ、愛?」
しかし。
いるはずの愛娘・愛の姿はどこにも見当たらず、リビングのテーブルには書き置きが。
「え、美弥子ちゃんの家に泊まってきます。夕飯はいらないです、て…」
その書き置きを読み上げた途端、しゅんとしてしまう。
愛の親友の美弥子ちゃんは最近、お母さんを亡くしたばかり。
同じように母親を早くに亡くした愛には、気持ちがよく分かるんだろう。ここ最近はよく美弥子ちゃんの家に泊まりに行っていた。
「…一人で鍋もなあ〜」
今夜は鍋にしようと思って買ってきた食材だったけど、明日になりそうだな。
その時。
♪〜♪♪〜♪
スーツのポケットに入れていた携帯が鳴り、僕は慌てて手にとった。
「もしもし」
『……………要』
「あ。高史君…」
『今、どこだ?』
「家だけど…」
『分かった』
そう言って、一方的に切れる電話。
「???」
程なくして、がらりと大きく開いた玄関の引き戸。
「え? え、嘘、どうして??」
そこに立っていたのは、190センチ近くもある長身の少年。その顔立ちは整っているのに、滅多に表情を崩さないから近寄りがたい雰囲気を醸し出している。
いわゆる不良な容姿をしている彼は、あまり大きな声じゃ言えないけど……僕の恋人。
「てか、どうやってここまで来たの? 学校は?」
彼はまだ高校2年生。
そして僕の家はかなり田舎の奥地にある。
普通に考えて、学校のある場所からここまでかなりの距離があるんだけど…。
「一人か?」
「え、うん」
僕の質問はまるっきり無視してくれた高史君は、大きな足取りで近付いてきて。
「たか…んぅ」
有無を言わせず唇を奪ってくれた。
「ちょっ、んっ、あ…」
ちゅ、とリップ音を出して離れていった唇が微かに笑んでいた事を、僕は見逃さなかった。
「今日は愛がいねえんだろ?」
「え、どうして、それ…」
「腹減った」
「は?」
「食わしてくれよ、それ」
「あ…」
スーパーの袋に入った食材に視線を送った高史君は、それとも…と口元をさらに歪めた。
「…要を食わしてくれるのか?」
「!!!」
首元に唇を寄せられ、思わずぞくりと背筋を震わす。
「本音は今すぐにでも食べ尽くしたいけど、…今はこれで我慢しといてやるよ」
言葉をなくす僕の顔を見て一瞬、切なそうな顔をした高史君は、すぐに意地悪く笑って離れていった。
それが何となく淋しく思ったのは、内緒だ。
「ほら。早く作ろうぜ。手伝うから」
「高史君、料理出来るの?」
「簡単なもんならな」
そう言って白菜を切る手つきは、確かに料理慣れした人間のものだった。
「愛が高史君にメールしたの?」
「…ああ。要が一人で淋しがってるってな」
「そっか…」
寄ると触ると喧嘩ばかりする愛と高史君だけど、何だかんだで仲はいいんだよな。
「要」
「え?」
ちゅっ
なぜか再び奪われた僕の唇。
「ヤキモチか? あんまり可愛い顔してたら、今すぐここで全部貰うぞ」
「は?」
「これでもかなり我慢してんだ。…要に触るの」
「っ?!」
いつの間にか真後ろに立っていた高史君にぎゅっと抱き込まれ、耳元に囁きを落とされる。
「今夜、泊まっていくから」
「!!」
「覚悟しておけよ」
高史君は今まで何度となく家に遊びに来た事はあるけど、泊まっていった事は付き合う前の1回だけ。
今夜泊まると宣言したその言葉の真意は、高史君の僕を見下ろす眼差しに
充分過ぎる程込められていた。
「要。好きだ」
↓
↓
終わり
要、いよいよ食われるのか?
2010.11.17