拍手御礼小説
□拍手文7〜真也×楓〜
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『初恋のような…』から、真也×楓をどうぞ……
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「お兄ちゃん、出かけるの?」
「ん、ああ」
玄関を出るところで妹の千夏から声がかかった。
「あ、そっか。クリスマスだもんね。今年はセイギさんの家でクリスマス会って言ってたよね」
幼なじみ達と毎年のように開いていたクリスマス会を、千夏はもちろんよく知っていて…。
何の疑いもなく聞いてくる千夏に、僕は曖昧な返事を返す。
「ああ…」
「…お兄ちゃんがジャケット着るだなんて、珍しいね」
何かを感じとったのか、千夏がいつもとは違う僕の服装に気付いて首を傾げた。
「え、そうか? 似合ってない?」
「そんな事ないけど……あ!」
「?」
突然、大声を上げた千夏は、僕を上から下までじろりと見ると、ニヤリと笑った。
「…?」
「今日は親父、忘年会で遅くなるからゆっくりしてきなよ。…できたんでしょ? か、の、じょ」
「!」
言い当てられて動きを止めた僕を、いいからいいからと千夏は笑顔で送り出してくれた。
「お土産はケーキでいいから。彼女さんによろしくね〜」
…できたのは彼女じゃなく彼氏だとは言えなかった。
『駅の改札口に17時で』
駅までの道程で、ゆうべ来たメールを何度も見直す。
滅多に会えない上、まさかクリスマスに会えるだなんて思ってなかったから、嬉しさも何百倍だ。
ニマニマしながら歩く僕は、きっとおかしな奴と思われてるに違いない。
でも嬉しいんだから仕方ない。
「……あ」
ふ、と額に冷たさを感じて空を見上げれば、灰色の雲から舞い降りるのは真っ白な粉雪。
「雪だ〜」
ふわふわと舞うようにして降りてくるそれを手の平に乗せようとした、その時。
「っ!」
後ろから伸びてきた大きな手が、僕の手を包み込んでしまった。
「…ただいま」
そして、すぐ耳元に落ちてきたのは大好きな人の声。
「おかえり、真也さん」
僕は肩に乗りかかってきた頭をぽすぽすと撫で、もう一度言った。
「お帰りなさい」
僕の彼氏は、滅多に日本にいない。
海外で活躍するJAZZシンガーで、大人の魅力溢れる人。
恋人同士になったのはつい最近の事で、僕はそれまで彼の妹と付き合っていた。
こうして会うのもまだ3回目で、ましてや密着する事もそんなにない。
「…し、真也さん。みんな見てるよ」
「会いたかった。駅で待ってたけど待ち切れなくて、早く楓の顔を見たくて見たくて…。ああ、楓だ」
……そんな風に言われたら、腕を振りほどく事なんてできない。
ぐううぅ〜
「「………」」
だけど。
甘い空気を破ったのは、空気を読めない僕のお腹の音だった。
「ぷっ! はははっ」
「……ごめんなさい」
…ああ、恥ずかしくて死んでしまいたい。
「レストラン予約してるし。夕飯食べに行こうか」
「はい…」
ひとしきり笑った真也さんは、僕の肩に乗せていた頭を離す瞬間、ちゅ、と音を立てて頬に唇を滑らせた。
「し、真也さんっ」
「ほら、行こうか。俺もお腹ペコペコだ」
頬へのキスは親愛の情を現すものだよ? と、してやったりな顔で笑う真也さんに、僕が言い返せるはずもなく…。
「行こう、かえでっちゃん」
蕩けるような笑顔で見下ろしてくる真也さんの差し出してくる手を、そっと握る。
「………可愛い…」
「? 何か言いました?」
「いや、何でもないよ。今日はいつもより大人っぽいね。よく似合ってるよ」
普段は着ない服装を褒められ、頬が赤くなるのが分かった。
「〜っ……可愛っ!」
「え、し、真也さん?」
今度はガバッと真正面から抱きしめられ、小柄な僕はされるがまま。
「…so cute! my sweet…」
「えええ?!」
まさかの英語に、ジャパニーズイングリッシュしか喋れない僕は固まるしかない。
「どうしよう…」
「え?」
「どうしよう。かえでっちゃんが可愛い過ぎて我慢できない………連れて帰りたい」
「!!」
まさかのお持ち帰り発言に、僕の頭からボンッと煙が出る。
脳裏に蘇るのは、千夏の言葉。
確か、門限にうるさい親父は今夜は帰りが遅いとか何とか…
それを真也さんに伝えるかどうかを僕は悩みに悩み……………結局、一緒にいたい気持ちに負けて口を開くのだった。
「……真也さん、あのね」
〜2011.1.7