拍手御礼小説

□拍手文8〜征司×星〜
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『舞い落ちる幾千の星』から、征司×星をどうぞ……


はあ〜と白い息を吐いて、憎いくらいに晴れた冬の空を見上げた。

「………」

うちの実家は神社やから、お正月は何かと忙しい。
その上、奉っている神さんがちょっと特殊やから、お参りする人間も一癖も二癖もありそうな奴が多い。


でも、だからってやなあ……

「ねえ、君。バイトの子だよねえ? この後、暇だったりする?」

「お兄さん達と遊びに行こうよ」

「そんな薄着でずっといたら風邪引くよ? あったかい所に行こう」

薄着なのは仕方ない。
白い装束と赤い袴を着ている俺の服装は、いわゆる巫女さんの恰好。
コスプレやない、正真正銘の神社の正装。

………ただし、女性用やけどな!

「あ〜、お兄さんら非常に残念やけど、俺は男や」

「「「ええっ?!」」」

「女の子ナンパするんやったら、浜に行ったらええで」

「ほ、本当に女の子なの〜?」

「何なら、下見るか?」

袴の紐を解く仕種を見せると、男達はブンブンと首を横に振り、足早に去って行った。

「ちっ、これで何回目や」

頭をガシガシとかき、暖房の入った社務所で茶をすすっている祖父の義照を睨む。





大晦日。
正月の準備に忙しい俺に、じじいは『お前の正月からの服や』と持ってきた巫女装束。
ふざけんなと跳ね退けようとしたが、『特別手当』という言葉を前には、黙り込むしかなかった。


「大体、こんな恰好、あいつに見られたら……ブツブツ」

「……あいつって?」

「あいつはあいつや…」

「…俺の知らない奴か?」

「………え?」



聞き覚えのある声に振り返ると、そこに立っていたのは黒いコートに身を包んだ背の高い男。


「嘘…」


「え、正月は仕事やって言ってた。何で…」

サングラスをゆっくり外す仕種を見つめながら、呆然と言葉を紡ぐ。

会えないと、仕事だと聞いていたから見られる事はないと、こんなふざけた恰好も引き受けたのに……

「……星」

「っ!」

名前を呼ばれ、途端に心臓がドクンと鳴り出す。
自分でも頬が赤くなるのが分かった。

「あいつって、誰だ?」


……てか、何か機嫌悪い?

「星」

「っ!」

あっという間に間合いを埋められ、腕を掴まれる。

嫌味なくらいに整った男らしい顔で、俺をじっと見つめてくる。
俳優なんて仕事をしているからか、オーラが半端ない。

「……そいつに見せたくて、こんな恰好してるのか?」

腕を掴む力が強くなり、俺は慌てて否定する。

「違うって。征司にだけは、こんな恰好見せたくなかったんや!」

「………似合ってるのに?」

「な、アホな事言うな! 俺は男や! じじいに頼まれんかったら誰がこんな恰好…」

「綺麗だ、星…」

今度はぎゅっと抱きしめられ、俺は暖かさに包まれる。



言いたい事も、弁解したい事も、怒ってやりたい事もたくさんあった。
でも、こいつを前にしたらそんな言葉はいつもどこかにいってしまう。


ただただ、胸の奥が震えて熱い気持ちが込み上げてくる。




「会いたかった」



「星…」

「会いたかったんや」

いつもの俺はどこに行ったんやってくらい、素直な気持ちが口から飛び出してくる。


俺は事情があって、生まれ育ったこの街から出て行く事ができない。
何の運命の偶然か、芸能人の征司と付き合う事になったけど、俺から会いに行く事ができないので、なかなか一緒の時間を過ごす事は難しい。

こうしていつも会いにきてくれる征司を、ただ待っているだけ。

「……征司」

抱きしめられているのを幸いと、厚い胸板にグリグリと額を押し付ける。

「…………何時にバイトは終わる?」

「え? 夜の8時やけど」
「5時にしてもらえるように交渉してくる。ついでに明日から3日間は休みだ」

「えええ??」

「俺のために夜から空けておけ。……足腰立たなくさせてやるよ」

「えええ?!」

「そんな可愛い恰好で他の男の前に立った罰だ。じっくり分からせてやるよ。星が誰のものなのかを」

「〜!!!」

足取り軽く社務所に向かう征司の背中を見つめ、俺は久しぶりの再会を喜ぶ心とはうらはらに、自分の身体をただただ心配していた。

「俺、生きてられるかな?」




……そして征司の宣言通り。
3日間かけてたっぷり可愛がられた俺は、予想していた通り、足腰立たずさらにバイトを休むハメになった。


〜2011.2.3

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