拍手御礼小説
□拍手文9〜始×大和〜
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『夜明け前』から、始×大和をどうぞ……
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※まだ始と大和が結ばれる前です※
「ねえねえ」
マンションで夕飯の準備をしていると、ハナがつんつんとズボンの裾を引っ張った。
「どうした、ハナ?」
「こんど、いつ来るの?」
「? 誰が?」
「おじちゃん」
「おじちゃん……始か?」
「うん。はじめおじちゃん」
始の名前を出すと、花が開いたみたいにパアッと笑顔になるハナ。
ついつい見ているこっちも顔が綻ぶ。
「このあいだ、じいちゃんのおうちで、おじちゃんとやくそくしたの。こんどはうちでパパのごはん食べよって」
この間、始が実家に来て子ども達や春子おばさんと食卓を囲んだ。
僕が実家に友人を連れて来たのが珍しかったのか、みんな始に興味津々だった。
整った顔立ちで華のあるオーラを出している始が、大皿に盛った里芋の煮っころがしをつついている光景はどこか可笑しかった。
「…ふふっ」
「? どーしたの、パパ?」
「ん? 何もないよ」
「ねえねえ。いつ来てくれるの?」
「そうだなあ…」
「あ〜、ハナ!!」
僕が何か言う前に、キッチンにやってきたフミヤが大声を出してハナに詰め寄った。
「おもちゃ片付けないとダメだろ!」
「…もう、片付けたもん」
「まだ絵本が残ってるぞ! まったく、すぐサボるんだからハナは」
「! さぼってなんかないもん! おじちゃんがいつ来るかパパにきいてただけだもん!」
そう言ってダダダとリビングに向かって走り去っていくハナに、こけるなよと声をかけてシンクに向き合う。
「?」
ハナを追いかけて行くもんだと思っていたフミヤは、なぜかぎゅっと僕のズボンの裾を握っていた。
「どうした、フミヤ?」
「で、始おじちゃんはいつ来るって?」
「……」
その目は期待に溢れてキラキラと輝いていて………マンションに来る約束を、今さっきハナから聞いたばかりだとはとても言えなかった。
「……そうだな。始も忙しいと思うから、ちゃんとした日付が決まったら言うよ」
「分かった。絶対だよ、パパ! へへ、始おじちゃんの車に乗せてもらう約束したんだ〜!」
嬉しそうにそう言って今度こそリビングに戻っていくフミヤの背中を見ながら、自然と微笑んでいた。
その日の夜。
『はい』
「あ、始…」
『どうした?』
僕は今日も帰りが遅い妻を待ちながら、リビングで始に電話をかけていた。
「知らなかったよ」
『?』
「ハナが、いつご飯食べに来るの? って言ってたよ」
『…ああ』
「フミヤが、始の車に乗るの楽しみにしてるだって」
『そうか』
電話口でも分かる、始の漏れるような笑いに、僕もつられて口角が上がる。
「子ども達は君が大好きみたいだよ。君の話ばかりしてる」
『…子ども達だけか?』
「え?」
『俺に会いたがってるのは子ども達だけか? 俺の事を大好きなのは子ども達だけか?』
「っ!」
『大和…』
くくくっと笑いを噛み殺す始に、僕の顔が真っ赤に染まる。
「も、もう電話切るよ…!」
電話でよかった!
僕の真っ赤に染まった顔を、始に見られずに済んだから。
『待てよ、大和…』
笑いを引っ込めた始が、少しだけ慌てたみたいに僕の名前を呼んだ。
『俺は会いたいよ。お前に』
「…え?」
『お前に会いたいよ、いつでも。俺はお前が大好きだから…』
「始…」
一語一語、やけに丁寧に紡がれるその言葉は、僕の胸の奥にストンと音を立てて落ちた。
『覚えておけよ、大和。俺はお前が大好きで、いつでも会いたがってるって事を』
そう言って、じゃあなと電話を切った始。
「………………バカ」
静まり返ったリビングでぼそりと呟く僕の顔は、それからしばらくは真っ赤になったままだった。
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終わり
2011.2.3