拍手御礼小説
□拍手文10〜心×秦〜
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『龍神の恋』から、心(こころ)×秦(しん)をどうぞ……
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朝から降り続く雨は、夕方近くになっても止みそうになかった。
「秦。ここに置いておくぞ」
「あ、ありがと」
祖父の佑一が持ってきたのは、明らかに大きなサイズの浴衣が4着。
悔しいけど、俺が着る訳やない。
「エプロン姿もカワイイな」
「いい匂い。何か手伝おうか?」
「おお〜、早く食わせろ!」
「………」
上から順に、190センチの巨体のくせに可愛い物好きのクラスメート・三平。
眼鏡が似合うイケメンやけど、真面目過ぎる生徒会長・井田さん。
筋肉質でガテン系の美術部部長・吹石。
ほんで、台所でエプロン片手にお玉をふるう俺をじっと無言で見つめてくる無口な男、心。まあ、何や。俺の彼氏って奴や。
同じ高校の先輩と同級生な彼らが、なぜ俺の実家にいるのかと言うと…
何かの話しの流れで天の川を見に行く事となり、どうせなら俺の故郷も見たいという事で、はるばる長い時間をかけてこの龍那村にやって来たわけで。
「せっかくこんな遠くまで来てくれたのに、雨てなあ〜」
でも、せっかくやから夕飯はしっかり食べてってやと、育ち盛りの男達にこれでもかというくらいに手料理を振る舞う。
「ごちそうさま〜。秦、いい奥さんになるよ」
「本当に美味かった。こんな料理を毎日食べれる人間は幸せ者だ」
「……お前ら。ほら、じじいがせっかく浴衣持ってきてくれたんやから、風呂入ってこいよ」
褒められるのが気恥ずかしくて、俺はじじい自慢の桧風呂への入浴を皆に促した。
なにぶん田舎で土地は余りまくってるから、デカイ男子高校生が4、5人入っても余るくらいの広さの風呂や。
ゾロゾロと浴衣を手に去って行く奴らに背を向け、片付けに入ろうとした俺だったが。
「!」
「秦…」
真後ろからぎゅっと抱き込まれ、俺は身体を硬くする。身長差のせいか、名前を呼ぶ声が耳元を熱く擽る。
「本当は俺1人が来るはずだったのに…」
「…ゴメン」
「秦の手料理、奴らに食べさせたくなかったのに。秦のエプロン姿も見せたくなかったのに」
「…心」
ほんまにゴメン、と抱きしめてくる心の腕に、自分の手をそっと這わす。
本当は心1人が休みを利用して村に来るはずやった。
それを、どこから聞き付けたんか、他のメンバーも知らない内に行く事になっててて、断れん状況になってた…
「…向こうに帰ったら、お仕置き、するからな?」
「え?」
何やらよろしくない呟きが聞こえ、顔を上げようとした俺の耳に、心のあ…という声が聞こえた。
「雨、止んだみたいだな…」
窓の外を見れば、赤く染まった夕空が、雲間から覗いていた。
「おぉ〜、綺麗だな〜」
「何というか、幻想的ですね…」
雨が止んだからか、庭には蛍がいたるところに飛び、ほのかな明かりで夜の闇を照らしていた。
そして。
「圧巻。それしか言えねえな…」
見上げれば、まばゆい程の星の渦。数え切れない星のカケラ達が、川の流れを形作り、夜空を彩っている。
「綺麗やな…」
幼い頃から見慣れた光景やけど、自然の美しさは何度見ても圧倒されてしまう。
浴衣に身を包んだ俺らは、ただただ無言で夜空の川を見上げていた。
「っ!」
すっ、と左手に絡む感触に、俺はビクリと肩を揺らした。
いつの間にか隣に立っていた心が、空を見上げたまま俺の手に指を絡めていた。
俺も、ぎゅっと指を絡める。
「この星の輝きも、はるか過去の光りに過ぎないってね…」
吹石が、ふとそんな言葉を口にした。
「何億光年彼方の星々ですからね…」
しみじみと感じいるように、井田さんはそう言う。
壮大な宇宙の中の、ちっぽけな俺ら。星の寿命からしてみれば、俺らの人生なんて瞬間でしかないんやろうな。小さい小さい、俺。
でも……
「「会えてよかった」」
思わずポソリと出た呟きは、隣に立つ男からも落とされ、俺は目を丸めてその顔を見つめた。
「秦、お前に会えてよか」
全く同じ事を思っていた俺は、暗がりなのをいい事に、精一杯に背伸びして、心の唇にキスをした。
「今度は2人きりで天の川、見ような?」
終わり
2011.7.2