拍手御礼小説
□拍手文12〜北斗×篤〜
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「いらっしゃいませ!」
「こちらのチョコレート、5点でよろしいですね」
「包装はどうされますか?」
2月に入ると、普段は閑古鳥が鳴いている職場も、世間の波に乗って来客が多かった。
次々にやってくる客の目当ては、ほとんどがチョコレート。
2月14日はバレンタインデー。
好きな相手にチョコレートを贈る日だ。
同時に、クリスマスの次にケーキ屋が忙しくなる季節。
「お〜い、こっちのラッピングはどうする?」
厨房の奥から同僚のナスティが、小さな箱を手に持ちやって来た。
「っ! それはラッピングはいらない…」
いつも目敏いナスティが持ってきたのは、冷蔵庫の目立たない場所に置いていたはずの小さな箱。
「んん? そういやあ、やけにシンプルな箱だな」
飾り気も何もないその白い小さな箱を開けようするナスティに、俺は咄嗟に待ったをかけた。
「ナスティっ! それは、こっちで預かるからっ」
「んん? 何でそんなに篤は焦ってるのかなあ?」
「べ、別に焦ってないが…」
「あやしいなあ〜」
「……」
「…まっ、いいか」
そう言って箱を開けるのを諦めたかのように見えたナスティだったが。
「な〜んて。ボクは好奇心の塊なんだな♪」
「あっ!!」
箱をカウンターの上に置いて今にも開けてしまおうと、手をわきわきするナスティの腕に、俺は飛び付いた。
「だ、だめだ!」
「…………何をしている?」
「「え?」」
ナスティの横顔をやけに近く感じたのと、腹の底から不機嫌丸出しな低い声を真後ろから耳にしたのはほぼ同時だった。
「ずいぶんと仲が良さそうだな」
「「オーナー」」
「息もぴったりだ」
「っ違! これは!」
声の主が恐ろしく不機嫌なのが分かり、俺は慌ててナスティから離れた。
今気付いたけど、これじゃあまるで俺がナスティに抱き付いてたみたいだ。
「オーナー、あのねこれは…」
ナスティがフォローを入れるよりも早く、彼はきっぱりと断言した。
「残念だが、こいつは俺のものだ。お前にも誰にも絶対に渡さん」
「っ! 北斗…」
「来い」
「え、えっ?」
ぐいっと腕を捕まれた俺は、反論もできないまま北斗に連れ去られて厨房を後にした。
「オーナー!」
その寸前。
背後からナスティの声がかかり、北斗は振り返った。
「30分だ。…それと、篤っ!」
「っ!」
ぼいっと俺に白い箱を投げてよこしたナスティは、口角を上げてニヤリと笑った。
「グッドラック」
そのまま北斗に連れ去られた場所は、店の奥にある倉庫。
「…っちょ…んぅ…」
扉が閉まり切らない内から始まる激しい口付け。
「…あ…んっ…北斗、待って…」
待たない北斗に口内を呼吸ごと奪われ、息も絶え絶えな俺。
「北斗…、ナスティとは…べつ…に」
「あいつにやってたんじゃないのか?」
「え…?」
ドキン、と胸の鼓動が高鳴る。
「もしかして、ナスティにチョコレートを渡していたと思った…?」
「……」
不機嫌さを丸出しにして何も答えない北斗の横顔を見た途端、俺の胸の中に熱い気持ちが沸き起こった。
この人が好きだ。
強烈にそう思った。
チュッ
「篤?!」
北斗の唇にキスを1つ落とし、俺は白い箱を開いた。
「あなたを想って作ったチョコレート。…食べてくれる?」
「………お前ごと食べてやるよ」
終わり 2012.1.31