学園小説
□オレンジkiss
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☆はじまりはじまり☆
「おら、とっととよけろよ。邪魔なんだよ」
「何、ガン飛ばしてんだ。ああ?」
日曜日の午後。
人で溢れる快速電車内。
座席に座れない乗客達が、揺れる車内で吊り革につかまる中、その男2人は明らかに浮いていた。
「何、見てんだよ!」
一目見てヤのつく職業とおぼしき男達は、入口近くに座るスーツの男に、胸倉を掴む勢いで詰め寄っている。
「見ろよ、あれ…」
隣に立つ正志(まさし)が、眉を潜めて京一郎(きょういちろう)の耳元で囁いた。
「あんな見るからにヤクザな奴って、まだおったんやなあ…」
「ほんまや。大人しく立ってたらええのに」
ほんの1秒程の差で座席を奪われたのがそんなに悔しいのかと、京一郎は呆れ顔でそのやりとりを親友の正志と見ていた。
他の乗客達も、遠巻きに迷惑そうな顔をしている。
かと言って、男達の迫力に圧され、何も言えない。
京一郎達も同じ。
こんな時、堂々と割って入れるくらいの勇気があれば。
暴力に屈しない力があれば。
歯痒い気持ちで男達を見ていた京一郎だったが。
ガタンッ
電車が音を立て、駅に到着する。
乗客の何人かがドアの前に立ち、開くのを待ち構える。
プシュー
ドアが開き、乗客が出ていく。
そして、入れ代わりで入ってきたのは1人の男。
「おら。向こうへ行け」
強引にスーツの男を立たせ、その腕を掴んで向こうにやろうとした男は、大きな壁にぶつかった。
「てめえ!」
ぶつかった反動で、3歩程後ろに飛ばされた男は、その壁が人間だと知り、当然のように突っかかっていく。
だが。
「邪魔」
その大きな壁は、一言、そう言ってヤのつく男達を一瞥すると、スーツの男の腕を掴んで、元いた座席に座らせた。
「……っの…」
男達は何も言い返す事ができず、さっきまでの騒ぎが嘘のようにすごすごと隣の車両に移ってしまった。
他の乗客の中から、拍手ともとれるざわめきが起こる。
京一郎も、拍手を送りそうになった1人だった。
「すげえ、あの人!」
「ほんまや。カッコイイ〜!」
ヤクザな男達を一睨みで黙らせたその男は、何事もなかったかのように、今は吊り革につかまって本を読んでいる。
京一郎はその男を、上から下まで穴が開く程観察した。
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