拍手御礼小説

□拍手文1〜環とテツのある1日〜
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昼休憩の事だった。


「あ〜、食った食った」

食堂で昼食を食べ終えた俺は、教室に帰る前に飲み物を買いたくて、中庭にある自販機の前まで来ていた。

「しっかし、毎日暑いな」

うるさいくらいの蝉の声が、より一層暑さを募らせる。

何にしよ…。やっぱ炭酸かな…

ガコン


「………で…ん」

「……ああ…」


「?」


何だ?

ジュースを取り出そうと屈んだ時に、聞こえてきたのは誰かの話し声。

しかも、片方は何やら覚えのある声で…

「…どれどれ」

自販機の影から、声のする方をそっと覗いてみると………小柄な女子高生と大柄な男子高校生。

向かい合わせに立ち、何となくぎこちない雰囲気。


「つか、テツじゃねえか…」

背が高く、ガタイのいい男は柔道部の後輩・テツで、ついでにイケメン。女子にモテまくり。
……そしてついでに、俺の彼氏。

「こんな所に呼び出して、すいません…。あの、その……」

ちっこいその女子は、大きな目をウルウルさせ、上目使いでテツを見上げてくる。

……ちくしょう、可愛いじゃねえかよ。

「俺、この後用事あるんだけど…」

対して、無表情のテツ。

てめえ…愛想なさ過ぎだろうが。

「あ、あの…わたし…、え、と」

真っ赤になる女子。

「何?」

表情の変わらないテツ。

「……」

………興味津々な俺。


「すすす、好きです! あなたが!」

…あ、やっと言った。

「………」

何ぃ? まだ表情が変わらないだと?!
お前は人形か? サイボーグか?

ちくしょう。こんな可愛い子に告白されやがって。
男臭い柔道部員のくせに、爽やかに青春してんじゃねえよ。

「わたしと、付き合って下さい!」

さらに、がばりと頭を下げる女子。

「無理」

即答のテツ。

「早っ!」

……思わずツッコむ俺。


別に、嬉しいとか思ってないからな…。ちょっとだけ、ただ、ちょっとだけキュンとしただけだし。

「…付き合ってる人いるんですか?」

涙目になりながらもさらに食いついてくる女子に、テツの顔色がピクリと動く。

「……どんな人なんですか?」

「可愛い人」

「…わたしよりも?」

おおっ、さらりとすげえ発言。
自分に自信があるんなら、さっきの上目使いもきっと計算なんだろうな…女って怖ぇ〜

「当たり前」

しかし。テツの発言の方が酷い。

「……っ。誰ですか?」

「…何で言わないといけない?」

「っ! 彼女が無理なら、遊びでも…!」

うおっ、何たる発言!
最近の若いもんは…

「無理」

はい、消えた〜。
てか、テツよ。その無表情、怖過ぎだから…

「どんだけ粘っても、あんたを好きになる事は絶対にないから。…俺は、あの人しか欲しくない」

「!」

今、こっち見たよな…。
いや、まさかな…?!

「…っ…わたしっ…」

「…泣いてもどうにもならないから。俺を動かす事ができるのは、1人だけだから」

「っ!!」

勝敗はあった。
ちっこい女子は、それ以上頑張れないと判断したのか、物凄いスピードで中庭から消え去った。


「……」

「……」

「……先輩、喉渇いた」

「……やっぱり気付いてたのかよ」

「当然」

ほらよ、と持っていたジュースをテツに投げて渡し、そのまま近付いていく。

「モテ男は大変だな」

「聞いてたんだろ? 欲しいのは1人だけだ」

「…恥ずかしい奴」

ちゅっ

「…先輩の前でだけだよ」

唇を一瞬で奪われ、顔を真っ赤にさせる俺に、テツはにやりと口元を歪ませる。



「盗み聞きなんて悪い事していた先輩には……お仕置きだな」


終わり
2011.8.10
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