拍手御礼小説

□拍手文9〜始×大和〜
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※いつかの未来の光景です※


「パパ!」

僕の姿を見た途端、ハナが駆け寄ってきた。

「ハナ…。卒業おめでとう」

「来てくれてたんだ」

胸元に一輪の花を付け、誇らしげに目の前に立つハナに、僕は感慨深い思いを抱いた。

「大きくなったな。それに、立派だったよ」

「だってわたしも18歳だよ。春からは大学生なんだし」

卒業生代表で挨拶したのは、前期の生徒会長を務めていたハナだった。
保護者として、これ程誇らしいものはない。

「ほんとに、立派になって…」

「やだ、パパったら…。ね、それよりもお兄ちゃん今夜は?」

「ん。いけるよ。遅れるかもしれないけど、来れるって言ってた」

「久しぶりに家族でご飯だね。わたし、お寿司がいいなあ」

「分かった。店予約しとくな」

「ママは…?」

「…都は、仕事みたいだ」

「…そっか。ね、始さんは?」


「え?」

「だから、始さんは? 日本にいるんでしょ?」

「……うん。先月、イギリスから帰ってきたけど」

「じゃあ、始さんにも声かけようよ。始さんも家族みたいなもんなんだからさ」

「…ハナ」

都との離婚が成立してからのこの何年間か、ハナやフミヤの前で始の名前を出す事はなかった。
敢えて、出さないようにしていた。

「…わたしももう18歳だよ。パパと始さんの事、少しは分かるつもりだよ」

「…ハナ」

「色々と大人の事情ってやつがあるんだろうけど…パパがわたしやお兄ちゃんの幸せを考えてくれてるように、子ども達だって親の幸せを思っているわけですよ」

偉そうに言う程のもんじゃないけどね。あと4年はスネかじるわけだし…と照れ臭さそうに笑うハナを、僕は信じられない気持ちで見ていた。

「ね、電話したら……あ、あれ?」

不意に、ハナが目を見開いて僕の後ろに視線を移した。

「うわあ〜、目立ってるなあ…。お〜い、始さ〜ん!!」

「ええ?!」


ハナの言葉に驚き、後ろを振り返ってみると、校門の前に人だかりができていた。

「相変わらずのイケメンっぷりだ。カッコイイよねえ〜、始さん」

人だかりを割るようにして中から出てきた人物に、僕の目はさらに見開かれる。

「始…」

「ハナ、卒業おめでとう」

「うわ、ありがとう! 綺麗…」

ピンクやオレンジの明るい花をアレンジした花束をハナに手渡し、始はニヤリと口角を上げた。

「イイ女になったな」

「ホント? 始さんも変わらないよね〜」

「始、何で…」

今日がハナの卒業式だなんて一言も言ってなかったのに。
何で…?

「フミヤに聞いた。今日が卒業式だってな」

「え? フミヤ?」

フミヤと連絡取ってるの?
いつから??

「ねえ、始さんも今夜は来てくれるでしょ?」

「ああ。ハナはどうせ寿司を食べたがるだろうから、店予約しとくってフミヤが言ってたぞ」

「えええ?」

僕一人だけ、話が見えない。
ハナもフミヤも、始がいるのが当たり前みたいに話してるけど…

「パパ」

ハナが口を開く。

「わたしもお兄ちゃんも、自分の人生をちゃんと考えてるよ。だから、パパはパパの幸せを実らせていいんだよ」

「……ハナ」

「始さん。パパの事をよろしくお願いします」

スッと頭を下げたハナに、僕はただただ呆然とするだけだった。



「任せとけ」

「始っ!」

真剣な目でハナを見つめる始の横顔に、僕は何の言葉も返せなかった。




「お前の親父は、俺が世界一、幸せにする」

「始!」

今度は僕に向き直る始のその真面目な表情に、ビクリと肩を揺らす。




「大和、俺と一緒に生きてくれ」

「っ! …………………はい」



満開の桜の下、満面の笑みの始にぎゅっと手を握られ、僕は幸せの温かみを感じていた。



終わり

2011.4.18
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