拍手御礼小説

□ファースト・ラブ
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☆不幸は続くよ、どこまでよ☆







ある晴れた日曜日の昼下がり。




ポカポカ陽気に誘われ、公園の中はほのぼのファミリーやいちゃいちゃカップルで溢れていた。


右を見ても左を見ても、これでもかというくらいに幸せオーラを振り撒く人間ばかり。




「はあ…」




そんな中。
1人、影をしょってるのは俺。

頭上で満開に咲いている桜も散るんじゃないかっていうくらいの負のオーラを撒き散らし、ベンチに座って盛大にため息を吐く。

リストラにあったサラリーマンと同じくらいの悲哀が、今の俺の背中からは漂っているはずだ。




「はああ〜」




そして、ため息。また、ため息。再び、ため息……


いい加減、公園の中で浮き過ぎている俺を、いちゃつくカップル達が遠目で見ているのが分かったか、そんなもんどうだっていい。
今は、自分の事で手一杯で、周りの事なんて気にしちゃいられない。


「はあ〜。やっぱキレイだったなあ…」


『彼』、の顔を思い浮かべ、重い息を吐く。









つい1時間程前、弟が家に恋人を連れてきた。
久しぶりに見た『彼』は、さらにキレイになっていて、思わずドキリとした。




「求君…」




俺が、弟の恋人に失恋したのは、約1年前。


最初に出会ったのは、図書館の中。
真剣に本を選ぶその横顔に、一目惚れしていた。
同じ男だという事も頭から吹き飛ぶ程、『彼』という存在は美しかった。
容姿だけでなく、その心の純粋さに惹かれた。


当時、シンガポールに海外赴任していたので彼となかなか会う機会はなかったが、それでも休暇さえとれれば日本に帰ってきて、図書館に通いつめた。

我ながら、自分でもスゴイなと感心する。

29歳にもなって、この情熱。
『彼』と過ごす時間が何よりも幸せだったから、距離なんか少しも感じていなかった。




でも。
『彼』は、俺ではなく弟の龍次郎を選んだ。



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