03/18の日記

16:58
カミカクシグナル(喪失×戯言、過去拍手)
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これは先日までにじふぁん様に投稿させていただいていた短編で戯言×喪失(missing)です。




魔法の使えない魔女なんて人を殺さない殺人鬼と同じだろ


京都といえば桜である。嵐山や下鴨神社など某鉄道会社のCMにあるような美しい桜や紅葉と厳かな寺社仏閣が見事にマッチしていてとても風流だ。桜は日本の国花であり日本人にとっては特別な意味を持つ華だろう

それと同時に初春のやや暖かい風がぼくの顔に吹きつける。鴨川には美しい桜が立ち並び花見という名の酒盛りをしようと集まってきた飲んだくれのサラリーマンや近所の大学生などで賑わっていた

おそらく彼らは今から夜中まで騒ぐつもりなのだろう。まるで去年殺人鬼騒ぎなんてなかったかのような騒ぎようだ

時刻は午後7時。最近日が伸びてきたためそんなに暗くはないが桜を見ていても特にぼくの心が癒やされるという訳ではないので家路につく事にしよう。

「こんばんは、『壊れた歯車』さん」

ぼくがそろそろ帰ろうと鴨川の喧騒に背を向けた時後方から不意にそんな声が聴こえた

どうせぼくの事ではないだろうとスタスタとその場を去ろうとするとなにやら裾を引っぱられるような感覚がした。どうやらさっきの痛い呼称はぼくの事だったらしい。ぼくは諦めて振り返る事にした


「久しぶり、『壊れた歯車』さん。あなたの魂の形は特徴的だから遠くからでも分かったよ」

オーケー、少し落ち着こう。ぼくが振り返った先に立っていたのは薄茶色の肩くらいまでの髪で白い服を着た高校生くらいの女の子だった。結構というかかなり可愛らしい顔立ちだ。正直ちょっと嬉しいシチュエーションだ。
だが先程のぼくを呼び止めた電波な台詞の事を考えるとあまりお近づきになって良い手合いではないだろう。そう結論づけたぼくは「人違いじゃないかい? 」と無難にそう言ってやり過ごそうとしたが彼女はぼくの裾を離してくれる事もなかった。無視して立ち去ろうとするもその手を振り払うことはできなかった。いい加減にしてくれ。そう言おうとするが彼女の浮かべている表情を見てその言葉を飲み込んだ

「そんなことはないよ。むしろ君を間違える事なんてないと思うよ。『壊れた歯車』さん。そんなに歪で特徴的な魂なんてそんなにないもの。」

彼女が浮かべていたのは微笑みだった。その微笑みは玖渚に似ているようで全く違う、一切の邪気も曇りもなく透き通った物だった。それに彼女の言った言葉はまるでいつぞや出会ったあの全てを見透かした占い師の言葉のような気持ち悪い感じもした。ハッキリ言って異常だ。ぼくですら断言できるぐらいの

もしぼくがぼくじゃなかったら恐らくぼくはその気持ち悪い雰囲気に呑まれていただろう。大げさかもしれないが多分本当の事だろう

いつの間にか僕の耳には鴨川の喧騒も聞こえなくなり僕の目は視野が狭くなったように彼女だけを見つめていた

「ぼくは君とは初対面だったと思うんだけど」

「またまた。すぐそうやって嘘をつく所は昔から変わらないね」

とりあえず平静を保つ為に軽口をぶつけるもあっさりと返される。どうやら向こうの主張では以前接触した事はあるのだろうけど僕には全く身に覚えが無い

「いや、本当に忘れてしまってね。君は何だい?」

彼女の事を聞こうと思うと僕の口から思わずこうこぼれていた。失態だ。ただでさえ僕は彼女の事を忘れていたかもしれないのにモノ扱いまでしてしまった

「そういえば忘れっぽかったけ。仕方ないなぁ。私は十叶 詠子。魔法も使えないし空も飛べない魔女で」

君の幼なじみだよ


僕の自称幼なじみは自己紹介とともにとてつもなく痛い事を三条京阪の駅前で大胆に、物怖じもせず高らかに、声高に笑顔で言い放った

正直、巫女子ちゃんの登場シーンよりも派手だった。そして痛い子に関わってしまったと思った

ぼくは春の風が運んでくる枯れ草の腐ったような匂いを鼻で感じながらあまりの急展開について行けずいつものお決まり文句を呟いた


「本当に、戯言だよ」



これがぼくと彼女の何度目だかの遭遇でぼくが魔女、十叶 詠子と言う人間を認識した最初の出来事だった


END

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