辰馬とバレンタインデー
「今日は何の日でしょう!」
「……はぁ?」
「またまた、とぼけちゃって」
あー、寝起きにこのテンションは本当に面倒くさいつか訛りとれてるぞ社長殿。
ちょうど深い眠りに入る前だったのか起こされて気分が悪いっつうのに、電話口でペラペラといつまでもうざったいテンションで今日は何の日でしょうと問いかけてくる辰馬に辟易する。
重い腕をなんとか動かして枕元の時計を確認すれば、12の上に長い針も短い針もぴったり重なっていた。
もちろん、夜中の方。
「…睡眠妨害してんじゃねえよコノヤロー」
「えー、だって今日バレンタインデーじゃろ?」
そうですとも。ただそれは確実に睡眠妨害の理由にはならないだろうに何を言っているんだろうかこの男は。
「なに、今日帰ってきたりするの?」
「いや、…すまんがあと半年くらいは帰れそうにない」
「あっそう」
「うん」
「…じゃあ、チョコレートの催促か何か?」
「わしのとこまではさすがに届かんじゃろうな」
「でも辰馬から送られてくる物だってあるわけだし」
「こっちから送る方がずっと楽やき。そっちからじゃ結構高くつくじゃろ」
「料金分は後で辰馬から貰うから別に、」
「どうせなら一緒に食べたいっちゅうのもある」
「……っ、だったら、用事はなんなの?」
「用事がなかったら電話しちゃだめな訳じゃないじゃろ?」
「用事がなかったら電話してこないクセに」
当日は会えない。チョコは渡せない。そんなこと毎年分かりきってるから、こんなイベント今更楽しみにもしてなかったしむしろ気にしてなかった。なのに、なんで今年に限って電話なんかしてきたんだ。わざわざこんな時間に電話なんてしてきたんだから何かあるに違いないと思いつつ、まだ寝ている脳みその片隅でふと、辰馬と最後に会った日から何日経ったか数えてみた。
最後に会ったのもやっぱり半年以上前だ。
指折りで数えた日にちを確かめてみると、
「あ、」
「ん?」
「……辰馬、覚えてたの?」
わたしはすっかり忘れていたのに、辰馬はその問いに意味ありげに笑った。
214日。最後に会った日から、今日が214日目。あの日の辰馬の第一声は今日からバレンタインデーまで214日じゃ!で、その浮かれようにわたしもつられてその日に二人で何かできたらいいねと言ったのだ。冗談だと思ったし、実際それからその話も話題になることがなかったので、すっかり忘れていた。
辰馬は普段イベント事には執着しないし、そもそも地球上での真夜中が辰馬の過ごす時間で都合のいい時間なのかもわからない。
地球との時差を考える手間もかかるというのに、変なところで律儀な男だなと思う。
そして、そういうところが好きだな、とも。
…まあ、本人には言わないけど。
「当分会えないけんど、とりあえず二人で祝えたきに、これで許しとおせ」
「うん」
「…じゃあ、また」
珍しく辰馬の方からぷつりと切れた電話を元の位置に戻して、今度辰馬が帰ってくる日にチョコレートでも渡そうかなと少しうきうきしながら布団に戻った。