‡REBORN‡

□夢現
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瞼の裏に浮かぶ幻影。
白い肢体がびくんといやらしく跳ねて。
そこからは目も醒めるような鮮血が伝った。
そして、その上に覆い被さるように昏く輝く双色の瞳。片方は血よりもなお紅かった。






――あぁ、またか。

雲雀は自嘲するように唇を歪めた。
幾度も繰り返し思い出すこの光景。
記憶からあの血の色が離れない。

――あんな綺麗な色、

他にみたことがなかった。
また、思い出しそうになっている自分に呆れた。
たしかに、仕事を休んで正解だったかもしれないと思った。
あの上司に言われるままにというのはいささか癪ではあったが、一刻も早くあの淫夢のようなできごとを記憶から追い出すべきだ、と思う。

「恭弥。おまえさ、インキュバスにでも憑かれたみたいな顔してるぜ」

調子が悪いから早退すると言った雲雀に、金髪の上司はそんな下品な冗談を投げて寄越した。
その言葉に自分は“そうかもしれないね”と答えたのだったか。
それ自体自分らしくもない行動だ。
普段ならあの男の言葉に返答などしないのだから。
けれど、雲雀の脳裏に焼き付いているあの姿にはそんな喩えがよく似合った。






それはごく普通の日の出来事だった。
普段のように職場に出向き、仕事を片付け、帰路につく。
雲雀は退社したのち、ホテルへと向かっていたのだった。
独身である彼には決まった家は必要でなく、気に入ったホテルを転々とする暮らしを送っているのだ。
自他共に気紛れだと認める彼に、その生活は合っていた。
それを浪費だと嘲笑う者もあるかもしれないが、雲雀にとってそれに必要な対価など端金であったし、他には特に金をつぎ込むような先もなかった。
先日、移ったばかりのホテルはなかなかに雲雀の気に入るものであったが、一つだけ難点がある。

――赤か。

雲雀は目の前を次々と走り抜けていく数多の自動車に眉を顰めた。
向こう側に渡るには次の信号でも良いのだが、そこに行くには広場を通らなくてはならなかった。
雲雀が日頃避けている場所だ。
そこは所謂恋人達が愛を確か合うのに使うような所になっており、雲雀にとってはある種嫌悪の対象であった。
人目もはばからずに絡み合うなど畜生のやることだと思っていたし、そうして喘ぎ交わる姿は醜いとしか思えなかった。
多分それがこの年にもなって決まった相手の一人もいない原因なのだ。
身体を繋いでみることはあったが、終えた瞬間感じるのはエクスタシーには程遠い嫌悪のようなものばかり。
抱く度に相手と、それを通して何かに幻滅した。
そうして、相手に別れを告げれば酷いと糾弾されるのだが、受けつけられないものは受けつけられないのだ。

――おまえは潔癖すぎる。

いつだったか、そう揶揄されたことがあった。
そうかもしれない。と雲雀は妙に納得したものだった。
しかし、雲雀は気紛れであった。
彼は広場の方へと足を進めだしていた。
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