‡short story‡
□約束
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「16時までにおいでって言ったよね」
雲雀は少年が応接室にやってくるなり問答無用で床に突き飛ばした。
痛みに呻くこともできないほどに不意打ちだった。
「毎回毎回遅刻するなんていい度胸してるじゃない」
その言葉に少年はスッと青ざめた。
琥珀色の大きな瞳が恐怖に彩られる。
「ねぇ、綱吉。君さ僕との約束なんてどうでもいいって思ってるんじゃないの」
部屋の空気を低く冷たい声が震わせる。
叩きつけられて痛む身体を無理やり起こしたツナだったが、今度はグィッと上に持ち上げられてしまう。
「あっ……」
息ができない。
「少し痛い思いしなくちゃ分からないのかい?」
雲雀は無情にもそんな台詞を吐いた。
ツナが襟を持ち上げる彼の手を必死に外させようとすれば流石にこのままでは死んでしまうと思ったのかその手を緩めた。
ツナは激しく咳き込んでガクリと床に倒れこむ。
「本当に軟弱だね、君」
雲雀は薄い笑みを浮かべて床に倒れるツナの背中を踏みつけた。
「っ……」
あまりの痛みにツナは呻いた。
「イイ顔するじゃない、綱吉」
朦朧とする意識の中で、くす、と雲雀が笑ったのを感じる。
悲鳴などあげても無駄だと分かっていたから、ただこの理不尽な暴力にひたすら耐えるしかツナに道はなかった。
この学校において誰よりも権力を持っているのは他ならぬ雲雀恭弥だったから。
ー誰も助けてなんてくれないよ。
もし、いたとしても間違いなく傷つくことになると分かっていることに巻き込みたくなかった。
でも、事情を告げればすぐにでも助けようとしてくれるであろう彼らを思うだけで少し希望がわいた。
が、それが彼は気に喰わなかったらしい。
「君さ、今、他の奴のこと考えたよね」
踏みつけてくる足が強くなる。
ぐり、と骨に食い込むよう。
「綱吉。僕は君のマフィアとかいう遊びに付き合ってあげているんだよ?僕との約束、ちゃんと守ってよね」
雲雀の言うことは全て受け入れなくてはならない、なんていう不条理な約束を大空戦のあとツナと雲雀は交わした。
そうでもしなくては彼は雲の守護者という立場を放棄しかねなかったのだ。
「綱吉。返事は?」
ギリギリと骨が内臓に食い込む。
涙が滲んできて視界が霞む。
「それとも何?僕の命令にうんざりしたの?」
慌てて否定しようにも首が動かない。
それが分かったのか雲雀はまたクス、と笑う。
もういいや、と呟くと
「綱吉、もっと声聞かせてよ」
と囁いてきた。
ーそれは……命令なんですか?
恐怖で声がでなかった。
そんなツナの様子を分かっていながら、あぁこの程度じゃ足りないってことかな、などと独り言のように呟いてみせる。
身体中に戦慄が走った。
「ち、違います」
無駄だと知りながらも言わずにはいられなかった。
縋るように呼んだのに無慈悲に雲雀は切り捨てた。
「ほら。早く」
さらなる激痛を覚悟しながらツナは震える声で言った。
「もっと、オレを……痛くして下さい」
その瞬間の雲雀の表現は思わず見とれる程に美しく残酷だった。
「やっぱり君は素晴らしいよ、綱吉」
耳元に雲雀の吐く息が聞こえるほどに唇を近づけられ囁かれる。
雲雀の指はツナのカッターシャツの上を這い回ると器用にボタンを外していった。
ついツナは抗おうとする。
雲雀はそっと囁くだけで良かった。
「約束、したよね」
と。
それだけでツナの僅かな抵抗は止まる。
「君のイイ声沢山聞かせてよ」
ーこれも命令なの?
ツナに抗う術などなかった……。
END