‡short story‡

□僕を殺して
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「僕を殺して下さい」

真剣な目で見てくるから何かと思えば彼はそんなことを言ってきた。

「は?何言ってるの、骸」

どうしてそんなこと言ってくるの?

「冗談がすぎるよ」

クスクスと笑ってごまかしてみようとする。
彼の目を見てしまえばそれが嘘や戯れではないことはわかってしまっていたけれども殺すことなんかできないからそう言うしかなかった。

「本気、ですよ?」

はい、とナイフを差し出される。

「僕はどうせいつか死ぬのならば君に殺されたいんです」

―もし僕を殺したならばきっと君はいつまでも僕を忘れられずに僕の事ばかり考えてくれるでしょう?

そんな言葉を耳元で囁いてくる。
骸の異常さに肌が粟立った。
震える声で

「そんなことしなくたってずっと愛してるよ?」

とオレは言う。

「僕だけを?なら……あの男を殺して下さい」

「あの男?」

「えぇ。先日君を好きだなどとふざけたことを言ったあの男を」

どうしてそんな。

「無理だよ……」

「では僕を。あぁ、ナイフでなくても構いませよ。僕の首を君が絞めてくれるというのも素敵だ」

おかしいよ。
全然素敵じゃない。
オレはただ骸と一緒にいたいだけなのにどうしてそんなことを言うんだよ。


「それも……駄目、だよ……」

オレは涙声になっていた。

「そうですか……」

骸は小さく溜め息をつく。

「非常に残念です」

―では、君の望まないことだとはわかってますが、

彼の言葉が途中から分からなくなった。
痛い。
熱い。
あ。
胸にはさっき彼が渡そうとしてきたナイフが刺さっていた。
その傷口に彼は顔をうずめうっとりと血に舌を這わせ、その指で傷口を開いていく。
そこからまたどくどくと血が流れていった。
頭がクラクラする。
視界がグラリグラリと揺れる。

「僕は君に殺されて死にたかった。ですが……」

一緒に死ぬというのもなかなかいいですね、なんて声がどこか遠くから聞こえたような気がした。



END

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