‡short story‡

□歌姫
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貫いて
ぐちゃぐちゃにして
ねぇ、おかしくしてよ
あなたのことしか考えられないくらいにもっと、もっと
あなたのが欲しい
欲しくてたまらないの
挿れてくれないのならせめてそれをしゃぶらせて
お願い
早く……ご褒美をちょうだい?








「何、これ」

僕は穢れがうつるとばかりにそれらの書かれた紙を突き返した。

「新曲の歌詞ですよ」

髪型だけにとどまらず脳内までも南国果実のような男はあっさりと言った。
耳がおかしくなったのかと思った。
これが、歌詞?
いかがわしいビデオかなんかの台詞の間違いじゃないの。

「骸。これをあの子に歌わせるつもり?」

「もちろん。これを彼が歌ってくれるのを想像するだけで抜けますよ」

この男は何を考えて仕事をしているのか。
僕は呆れて声も出なかった。



僕たちはいわゆるミュージシャンだった。
作曲を僕がし、作詞を骸がし、その歌を綱吉が歌う。
骸はいつも全年齢指定ギリギリの歌詞まで書いているが綱吉がまた平気でその歌を歌おうとするから保護者代わりを彼の両親に頼まれている僕は常にハラハラさせられている。

「いい加減にしたら」

「おやおや。君の曲にぴったり合う歌詞でしょう?」

リズムやメロディーの面だけを見ればね。

「こんなの綱吉に歌わせてまた変な奴らが夢中になったらどうするの」

「そんなの僕たちの前でだけ歌わせればいい話でしょう?公にだすためのはまた別に歌詞を書いています」

なるほどね。
ならいいかな。
綱吉があの可愛い声でこれを歌ってくれるなんて。
少し頬を紅潮させてうっとりとした表情で……って駄目だろ、自分。
何、変態に流されそうになってるんだ。
軽い自己嫌悪。

「クフ。隠しても無駄ですよ。綱吉君の幼なじみだからって欲望を抑えているつもりなのでしょうが同族にはバレバレです」

「君が同族だなんてごめんだね」

「僕も君のようなムッツリと同族なんていやですけど綱吉君を愛しているという点ではな悲しいかな同じですからねぇ」

ムッツリ!?
彼のような頭のてっぺんからつま先まで変態なのには言われたくなかった。
納得がいかなくて僕が反論しようとした時、ガチャリ、とドアが開いた。

「!?」

彼だ。

「こんにちは!!ヒバリさん、骸さん」

自分が先に呼ばれたというだけで嬉しくなるだなんて僕もだいぶいかれてる。

「あれ、骸さんが手に持ってるのって新しい歌の歌詞ですか?この前ヒバリさんが曲作ってたのの……」

「そうですよ」

言いながら骸は綱吉に紙
を差し出す。
僕が待て、と手を伸ばす前に綱吉はそれを受け取ってしまう。
じっとそれを見た後、前に僕が見せた楽譜どおりに歌い出す。

「こんな風になっちゃうくらいあなたを待ち望んでいるの」

止めなくては、と思うのに囚われてしまったように身体が動かない。


「見て。あなたが欲しくてもうここは甘い蜜であふれちゃってるの。早くあなたと一つになりたいよ、ねぇ」

僕を支える理性を破壊するように綱吉の歌声が響き続ける。
駄目だ、ここで流されたら僕は……。
僕はなけなしの理性をかき集めて

「綱吉、さっきお菓子の差
し入れがあったよ」

と言った。
途端ぴたりと歌声がやむ。
骸は悔しそうに表情を歪めたけれど知るか。

「わぁ!嬉しいです!」

子どものようにキラキラと目を輝かす彼に心なしか頭痛がする。



純粋さも度が過ぎれば凶器だなと我らが歌姫を見ながら思った。



END

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