‡short story‡

□間違い
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「随分いいところに住んでるんだね」

綱吉の家へと上がり込んだ男は部屋中を見回すと、そう感想を述べた。
大学生である綱吉が一人で暮らすには広すぎる。そして……、立派すぎる部屋であった。
都心の一等地に建てられた超高級高層マンション。
そこの最上階の一室が綱吉の家だった。
部屋の価値だけではない。
調度品も豪奢である。
ダイニングに置かれた一組のチェアーとテーブル。
リビングとの仕切りのようにして置かれるゆったりとしたソファーに、その横に並べてあるキャビネット。
中には、いつ使うのだろうかと思いたくなるような高価そうなグラスがいくつも飾られていた。
それらを一通り見たあと男の目は綱吉へと向けられる。

「……。そんな感想を言いに来たんですか?オレはあなたが六道骸の御友人で、大切な話をしにきたのだと伺ったから、案内したんですよ」

品定めでもするかのような男の視線が不愉快で綱吉の口調もつい刺々しくなってしまった。

「ごめんごめん。そうして立ってると骸君がこの部屋買ったのもよく分かるなぁって思ってさ」

つい見とれちゃった。軽口を叩いて男は綱吉ににっこりと笑いかけてきた。
綱吉は、といえば男から距離をとるために窓際に立っていた。

「どういうことです?」

「そこの窓から見える空。君によく似合うよ」

外界と硝子で区切られたこの空間。
そんな中に閉じ込められるのがよく似合う、と。
綱吉にそこまでは分からなかったけれど、ぞく、とした。
本能的にこの男は苦手た、と思う。

「……そこのソファーにでも座って下さい」

表情が引きつりそうになってしまうのを堪えながら、努めて笑顔を造って綱吉は言った。

「飲み物、用意しますよ。紅茶と珈琲、どちらがお好きですか?」

「んー、マシュマロかな」

「は?」

「冗談。長話するつもりはないからいらないよ」

君も座ったら?と促されて綱吉は男の座る位置から一番離れた場所へと腰掛けた。
しばらく伏し目がちにしていたが、男の視線を感じて、ぐぃ、と顔をあげる。

「あの……何ですか?さっきから」

「いや、骸君が惚れるのも無理ないやって。君、可愛いよ。沢田綱吉君、だっけ?」

「……ありがとうございます」

この男はいったい何がしたいのだろうと心の中は不安で溢れかえっていたが、綱吉はそんな様子は微塵も見せないように気丈に振る舞っていた。
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