‡short story‡

□cleave
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どうも綱吉は僕を噛むのがお気に入りらしい。
始まりはひと月前程だったか。
ちょうど、梅雨入りをしたとニュースが報道していた頃だった。
彼は僕の膝の上に乗ってぴた、とくっついてきたかと思えば、シャツの襟刳りの間へと顔をうずめて。
そして、かぷと鎖骨の上の皮膚に噛みついてきた。
若干、どころかかなり痛かったけれど、彼の柔らかな唇の感触を愉しめることを思えば悪くない代償だった。
彼は今はもうお互いに好き合っていることが分かっているというのに自ら触れてくることは少ない。
だから、尚更嬉しかった。
僕は飽きずに唇を寄せ吸い続けている彼の髪を優しく梳いてやった。





放課後、彼は応接室に来る。
それはどちらともなく決めていた僕達の間に存在する数少ない規則の一つだった。
僕は彼が来たら書類を片付けるのをやめて彼と戯れることしか考えなくなる。それは彼も同じ。
ここが学校であることなんて忘れて行為におよぶこともあれば、付き合いだした頃のように見つめ合い続けたこともキスばかりしていたこともあった。
綱吉が試験前の時は勉強を教えてやったりもする。
ある時、彼があまりにも嫌そうな顔をして問題を解いているものだから“もう勉強するのやめたら?”と言ってやった。
中学を卒業したら高校なんて行かないで僕の家に来ればいい、と。
一生僕のもとにいるなら学歴も何も必要ないし、数学も英語も分からなくたって困らないよ、とそう。
結構真面目に言ったのにそれは素敵ですね、とまるで本気にしないで彼は答えた。
むっとした。
だから、冗談ではないことを示すために綱吉の唇をふさいでやったのだった。





今日も綱吉は僕のもとにやってくる。
僕が膝に乗るように言えば彼は大人しく従った。もはや彼の定位置になりつつあった。
しばらくした後、綱吉はいつものように首筋に噛みついてこようとした。僕は彼に話があったのだが、少し悪戯心を起こしてその唇の奥に指を挿れて止めてみる。

「?」

思惑どおり彼の動きは止まった。
そんな綱吉にねぇ、と僕は話しかける。

「翌日が学校の時には痕を残すのはやめた方がいいって草壁に言われたんだ」

僕としては全くかまわないことだったのだが、学校内で僕に残された痕に気がついている者がいるらしい。
女子の間で相手は誰なのか噂になっていますよ、と非常に気まずそうに言われた。
一瞬それに関与する者を皆、咬み殺してやろうかと思ったが綱吉が困るかもしれない、と思い止まった。
それに今、行為に代わる案を思いついた。
綱吉、と彼の名前を呼んで、その口腔の中に挿れた指を蠢かせる。
口蓋、歯列、舌……となぞるように這わせてみても彼は未だきょとんとしていた。
僕はずる、と指を引き抜いて彼に見せつけるようにしてやる。彼の唾液がつぅと透明な糸を引いた。
彼の液体にまみれて僕の指はいやらしいぬめりを帯びていた。彼の後孔に潜り込ませた時に似ている。
僕はその指を口に含んでみせた。
綱吉はそれを見てようやくはっとしたように頬を赤らめる。
僕は僕でただそれだけのことであるのにまるで性交でもしているかのような欲望を覚えてしまっていた。

「僕の指はどう?」

それが僕の思いついた代案だった。
そっと囁いてやれば彼は恥ずかしそうに身じろぎした。
またいつかみたいに冗談だと笑われるのかと危惧したけれど、彼はもう一度僕の指に口付けてきた。
何よりも明白な答えだった。
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