‡short story‡

□身体検査
1ページ/2ページ



そんなに疑うのならば調べてみればいい。とたしかに自分は言ったが、それにしても男はあまりにも無遠慮であった。
外から触れるだけにとどまらず服の中にまで指を滑り込ませてきて。
その露骨な感触に綱吉はぎゅっと眉を寄せる。
もし抗う素振りを見せたならばきっと先程のように“やはり隠しているのでしょう”と意地悪く囁かれてしまうに違いなかったから綱吉は必死で堪えようとしていた。
それでも、男の指が腰にまで降りてきた時はびくと震えてしまう。

「どうかなさいましたか」

そう問いかけてきた男の声はたしかに笑みを含んでいた。
もしかしてこちらにお隠しになっているとか、とわざとらしく囁いて寄越す。

「ちが、う……そんなところに隠さないっ!」

「そうですか……。ではまた別の場所に?」

男はその優美な容姿とは裏腹に執拗でいやらしい愛撫を繰り返す。
あぁ、どうして自分は彼の提案を飲んでしまったのだろう。
綱吉はそう後悔せずにはいられなかった。






綱吉には恋人がいる。
日頃から彼には君はもっと自覚を持った方がいいとかなんとか言われてはいたが流していた。
だいたい何の自覚だかさっぱり分からない。
彼曰わく男を誘うらしいが。
ただ、綱吉にも自分が綺麗な人に弱いという自覚はあった。
勿論、恋人が絶対であるのには変わらないのだが少し見とれてしまうことはあったりする。
今日もそうだった。
綱吉が今、およそ手の届かないようなアクセサリーショップを訪れているのは恋人に何か似合うようなものを探したいと思ったからだった。
が、そこで出会ってしまったのだ。
翡翠色の長い髪を後ろに一括りにしてカウンターに立つ店員。
切れ長の目といい、造作の整った顔といい綱吉が見とれるには十分すぎた。
そんな彼に嫣然と微笑まれて、綱吉は知らず警戒を解いてしまっていたのかもしれなかった。
綱吉は誘われるように中に入ってしまったのだ。
そのショーウィンドウに並ぶ品々を改めて見てみて、ようやくそれらが自分にはとても手の届かない高価なものであることに気が付いた。
慌ててショップを飛び出したのだが……そこを男に止められてしまった。
彼は綱吉がアクセサリーを持ちだそうとした、と言うのだ。
そんなはずないと綱吉が首を振っても現にポケットからは店に並んでいたネックレスがカチャ、と音を立てて出てきてしまって。

「これでもまだ言い訳なさいますか」

蒼白になる綱吉とは裏腹に男はひどく愉しそうに彼を眺めていたのだが、焦ってしまった綱吉は気が付かなかった。
そして、男に言われるままに店の奥にある一室へと付いて行ってしまったのだった。







綱吉がいくらオレは万引きなんてしていないと言い募っても男はてんで相手にしなかった。

「言葉はいくらでも偽れますよ。もし……君がこれ以上何も持っていなかったならば信じてさしあげましょう」

桔梗、と名乗った彼はその容姿に違わずあくまで上品な声音で言った。
惹きつけられてしまうような魔力のあるその言葉に綱吉は思わず頷いてしまった。
男の目論見など気が付きもしないで。
……その結果がこれだ。
勿論綱吉の衣服からは何も見つからなかったのだが、男はそれでも解放してくれようとはしなかった。

「隠せる場所はまだ、いくらでもあるでしょう」

もう帰して、と言おうとした綱吉にそれを見越したよう彼は言った。

「え?」

「そう。例えば」

男は囁きながら服の下にもぐりこませた手をそのすべらかな臀部へと伸ばしてくる。

「ここにだって隠せそうだと思いませんか?」

「?」

困惑する綱吉には応えず、その指は動かされる。
臀部からさらに下へ。今はまだ外部からの訪問者を拒むように閉じられた“入り口”へと。

「!?」

「こちらも確かめさせて頂きましょうか」

後孔に人差し指が当たる。
ますます身を固くする綱吉のせいでその入り口はなかなか開こうとしないが、男は器用にもその割れ目へと指を入れ込むと静かに拓いていった。

「やだ!」

ここまで来てしまったらさすがの綱吉ももう我慢できなかった。
自らにまるで言いがかりのようにかけられた万引きの疑いなどよりも今、置かれている自分の立場の方がよほど危険だと遅ればせながら気が付いた。
けれど、どこにそんな力があるのか男の綱吉を押さえる力はいつの間にか僅かの身動きすら取れない程になっていた。

「お客様、少々お静かに」

空いている方の指を唇に立てて、男は首を振った。
そうしながらも、綱吉の体内へと指を進めてくる。

「だっ、て……こんなところに入るわけ、ないっ」

「そうですか?でも私の指をこんなにも飲み込んでいるのですよ?」

男の言葉に、綱吉は横にある鏡を思わず見てしまう。
頬を赤く染めた自分、その上にある桔梗の取り澄ました顔。
彼の手は綱吉の下肢へと伸びていた。
ズボンも下着もずらされて本来の役目をもはや果たしていない。
露出した、さらにその奥に男の手は添わせられている。
そして、男の言うとおり指の一本は根元の部分まで埋もれてしまっていた。
男は綱吉の視線が釘付けになっているのを承知でずる、とわずかに引き抜いてみせた。それから

――ほら、君の液で濡れてしまったのですよ。

と示してくる。
綱吉は羞恥に目を瞑ってしまいたくなった。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ