‡short story‡

□淫乱教師
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「あのね、白蘭君」

精一杯まなじりを吊り上げて怒った表情をしてみせる担任教師があまりにも可愛らしくて白蘭は思わず微笑んでしまいそうになる。
が、なんとか声音に滲みそうになる思いを抑えて

「何?先生」

とごく普通な調子で返した。
彼が放課後わざわざ自分を呼び出してまで話そうとしている用件は白蘭にもだいたい予想ができていた。

「この際だからはっきり言うけどさ、このままだと学年上がれないよ」

「あ、やっぱり?」

白蘭の成績は問題なかった。
むしろ学年でも上位の方である。
が。授業の欠課が多すぎるのだ。
それも単位を落としそうになるほどに。

「でもさ、先生の授業は一回も休んでないじゃん」

「だけど、それ以外ほとんど受けてないよね」

綱吉は嘆息する。
講読だけ出席したところで何にもならない。
二人きりの面談室では彼のため息もよく聞こえた。

「朝と帰りは来てるのに……。その間、何してるの」

「校外に遊びに行ってるんだよ」

あっさりと白状した白蘭に綱吉は毒気を抜かれてしまった。
言うまでもなく無断外出は校則違反である。

「でも……校内を歩き回るのも好きかな」

「校内を?」

綱吉は首を傾げた。
そんな面白いような場所あっただろうか、と思う。

「うん。例えば……別館とか」

別館。綱吉は頭の中で反芻する。
多目的教室や空き教室のたくさんある校舎だ。
綱吉も授業の無い合間の時間に使うことがある。
しかし、それだけだ。別段面白くもなんともない。

――!

綱吉ははっと目を見開いた。
白蘭の方をそぅっと窺ってみる。
彼が知っているはずがないと思うのだが、厭な予感は拭えない。
しかし、そんな綱吉の気持ちとは裏腹に彼は何食わぬ顔で話し続けた。

「にしてもさ、先生大変だよね」

「な、何が」

綱吉はどぎまぎしながら返す。
すでに“白蘭について”の話だったはずがまるで関係ない話に逸れだしていた。
けれど、動揺してしまっている綱吉は彼に主導権を握られてることさえ気がつかない。
白蘭はいつのまにか綱吉の向かいの席を立って、すぐ隣にやってきていた、が、それを咎めることすらできなかった。

「先生さ、一度すごく調子悪そうな時あったじゃん」

すぐ隣で彼が喋るのが聞こえてくる。

「オレ、が?」

「そうそう。僕は席前の方だったからよく聞こえたんだけど、苦しそうに息吐いててさ」

――色っぽかったよ、先生。

白蘭は囁くように綱吉に言う。
距離が狭まったせいで余計におかしな感じだ。
綱吉は声もでない。
彼が何を言いたいのかようやく分かったのだ。

「ね、誰にされたの?」

「!?」

綱吉はすぐ隣にいる自分よりも年下の少年が恐ろしくなる。
彼はどこまで知っているのだろう?

「先生にあの時いやらしい玩具をくわえさせてたのは誰、って」

あぁ、彼は知っている。
綱吉が“彼”の暇つぶしの遊戯のために行わされた屈辱を。

「…………」

「そんな顔しないでよ、先生。満更でもなかったんでしょ?先生って清純そうな顔してるくせに淫乱みたいだし」

全てを見透かしたように彼は言い放つ。
その視線にさえ、ぞく、としてしまっている自分にも彼は気がついているのだろうか。
綱吉は息をのんだ。

「先生。僕さ、見ちゃったんだよ」

彼は思わせぶりに話を振ってくる。
自分に綱吉の視線が釘付けになっているのを見ると満足したように再度唇を開いた。

――先生が自慰してるとこ。

「!」

「僕が授業抜け出した時、ちょうど別館に向かう先生を見つけてさ、着いてってみることにしたんだよね」

綱吉は首を必死で振った。
その先は聞かなくても分かる。自分のした行為なのだから。

「誰もいないと思ってたんでしょ、先生」

――確かめもしないで、迂闊な先生。

そんなところも可愛いんだけどね、と白蘭はクスと笑いながら言う。

「それとも、そんなに早く弄りたかったの」

「違」

「わないでしょ。……そこでね、僕から提案があるんだ」

ぎ、と椅子の音がした。
白蘭がさらにこちらに近づくように椅子を引いたのだ。
吐く息の音さえ聞こえるような距離。

「先生が僕の単位なんとかしてくれるんだったら、挿れてあげる」

言いながらすでに白蘭の手は綱吉へと伸びていた。
脚に置かれたそれは撫で回しながら這い上がり太腿に触れる。
綱吉がたまらず、あ、と声を洩らせばその反応に彼は目を細めた。

「先生、すごい敏感なんだね」

「やっ……からかわない、で……びゃくらん、くんっ」

早くもその頬を欲情に赤く染め綱吉は首を振る。

「本気だよ。先生が承諾してくれたらすぐにでも悦くしてあげるのに」

――玩具とか自慰なんかするよりもずっとね。

教師としてはあるまじきこと。
綱吉はたしかに教え子のその言葉に欲情してしまっていた。
“あの男”に躾られた、自分ですら飼い慣らすことのできない身体がどうしようもなく疼くのを感じた。
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