‡short story‡

□灰かぶり
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がちゃ。
ドアの開かれる音がまどろむツナの眠りを遮った。

――いや。

まだ起きたくない。
もう少しだけ……あと少しだけ現実から目を背けさせて。
ツナはぎゅぅと毛布を掴んだ。

「綱吉、いつまで寝てるつもり」

冷ややかな声と共に首筋に添えられるトンファー、なんて名前の金属器。
義兄の愛用する道具だ。
それは、恐ろしいほどの殺傷能力を持っているけれど、彼なら躊躇いなくツナに振り下ろすだろう。

「やっ……待って、待って下さい!お兄様。起きます、起きますから!」

ツナは彼から身を遠ざけるようにして身体を起こした。
避けられたことが気に食わなかったらしい。
兄は整った顔を上品に歪めた。
ツナはびく、と震える。
目はすっかり醒めてしまった。
空いた場所に恭弥は腰を下ろす。相変わらずトンファーはツナに突き付けられたままだ。

「綱吉、君は兄に向かって挨拶もできないの?」

――まずは“おはようございます、お兄様”でしょ?

トンファーの先端がなぶるようにツナの頬をなぞる。
ひくっ、とツナは息をのんだ。
その怯えた様は恭弥の嗜虐心を刺激してしまったらしい。
彼は目を細めた。

「この口は何のためにあるんだい」

ぎゅ、と固く結ばれた唇を恭弥はトンファーでこじ開けようとする。
ツナに逆らうという選択肢はない。
大人しく唇を開いた。
待ち構えていたように滑りこんでくる凶器。
ツナは無理矢理に金属器を口に含ませられることになってしまう。
そんなツナの様子を見ながら、あぁ、と納得したように雲雀は呟いた。

「“お気に入り”をくわえるためか」

「!?」

あまりにもひどい揶喩。
流石のツナも反論しようとした。
が。
もう限界だというのにさらに押し込められるトンファーから逃れようとして、ツナはバランスを崩してしまった。
寝台へと倒れ込んだツナに恭弥は覆いかぶさってくる。
ツナは咄嗟に目をつぶった。
次の瞬間、ツナの口からトンファーは抜かれ、入れ代わりにそれとは比べものにならないような圧倒的な質量のモノが押し込められていた。
どくどくと脈打つ欲望にたぎったそれ。
は、としたように自分を見上げてくるツナに恭弥は唇の片端をあげた。

「好きでしょ、綱吉」

クス、と笑いながら恭弥はさらに奥へと陰茎を挿れてきた。
喉を圧迫しそうになるほどに深く。

「んんっ!」

違う、とツナは声にならない言葉を紡いだ。
ツナの懇願なんて微笑すら浮かべながら踏みにじることができる。彼はそんな男だ。
どうせ彼がやめないだろうということは分かっていた。
けれど……、そう言わないとこの行為を受け入れてしまいそうだったから。

「舐めてよ」

口腔に押し込められた男の陰茎。
ツナの小さな口には大きすぎる。呼吸をすることさえも苦しい。
けれど、もはや習慣と化したことでツナは従わざるを得なかった。
彼に逆らってしまった時の恐ろしさはその骨の髄まで刻み込まれていた。
もしかしたら、そんなものは言い訳に過ぎないのかもしれないけれど。

「ん、んっ」

ツナは恭弥の機嫌を損ねないように、と必死で猛る彼のモノに舌を這わせた。

――くるし……。

早く達して口から抜いてもらわないと本当に息ができなくなってしまいそうだ、と思う。
酸素が足らないのか視界がおかしい。
ツナの瞳には生理的な涙が滲み、潤む。
恭弥は彼の口腔の感触も気に入っていたが、そんな彼の表情も好きだった。
中心にまた、熱が集まるのを感じる。

「ん、っ」

ただでさえ苦しいというのにさらに質量を増すそれにツナは堪らず表情を歪めた。
苦痛と……そして、嫌悪に。
こんな凌辱すらにも快楽を見出だしてしまいそうになる自分が恐ろしかった。

――早くやめて。

ツナの大きな瞳にその想いははっきりと映し出されてしまっていた。
恭弥と視線が絡む。
ツナの小さな反抗は彼を苛立たせてしまったらしい。
それが分かって、ツナは表情を恐怖に歪めた。
そんな様子がさらに恭弥の“もっと酷くしてやりたい”なんて欲望を煽ってしまっているというのに。

――っ!

ツナは思いきり口腔の奥深くに陰茎を押し込まれて、堪らず涙を零しそうになった。
でも、絶対に泣いてやりなどしない。

「本当に……綱吉は可愛いね」

恭弥はうっとりと囁いて寄越した。
ツナは身を強張らせた。
いやな予感がした。
と。
口腔に押し込まれた陰茎が動かされる。

――!!

ぐじゅ、という濡れた音が中から鼓膜を揺すった。
許容量を超えたそれを強引にピストンされ、その度に口腔を、唇を、舌に擦れる。
否が応でもツナは口の中に広がる彼の味を感じさせられた。
そうされているうちに、いつしか積極的に舌を這わせ出してしまっている自分にツナは気がつく。

――や、だ……。

ツナはそんな自分を抑えるためにも早く終わらせなくてはならなかった。
恭弥の微かな息遣いが聞こえる。
それの打ち付けられる速度が上がっていくのが分かった。

――あと、少し。

早く放って。
オレをおかしくしないで。
ツナは必死に堪える。
恭弥の動きが止まった。
そして、口腔に広がる苦い液体。
侵されてる、と思った。
彼は射精したらしい。

「のんで、綱吉」

言われなくても分かっている。
ずる、とようやく抜かれるペニス。
ツナは喉に絡みついてくるような液体をなんとか嚥下した。
それから、身体を起こして恭弥の下に屈み込むと、精液とツナの唾液とに濡れた彼のペニスを再度口に含む。
一滴たりとも残さないようにしゃぶりきれいにするまでがツナに課せられた“仕事”だった。
恭弥を刺激することがないよう慎重にツナは舐める。
もう一度彼の相手をすることになっては大変だから。
そろそろ、もう一人の兄のところに行かなくてはならない時間が来る頃だった。

「ねぇ、綱吉」

ツナが唇を離したところで恭弥は抱きしめてきた。

「……お兄様?」

恭弥の指はツナの背をなぞるようにしながら下へ下へと降りてくる。
ツナはぴくん、と身体を跳ねさせた。
身体におかしな感覚が戻ってきてしまう。
そう。妙に……、

――あつい、よ。

そんな反応を彼が見逃すはずもなく、恭弥は目を細めた。
何か言おうとしたのか口を開きかける。
と。
カーン。
窓の向こうから教会の鐘の音が聞こえてきた。
ツナははっとした。
9時の鐘だ。

――綱吉、明日は9時に僕の部屋に来てくださいね。

昨夜、別れ際に長兄に囁かれた言葉が脳裏をよぎる。
鐘が九つ鳴り終わる前に兄のもとを訪れていなかったら何を罰と称して与えてくるのか。想像するだけでぞっとした。
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