‡short story‡

□Last Christmas
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視界の端をはらりと舞っていく雪さえも疎ましく感じられた。
今年はホワイトクリスマスになるかもしれません。心なしか浮き立った声でなされた天気予報を思い出す。
お見事、的中。
白くなりだした街を僕は独り歩いていた。
行き交う人々は思い思いに浮かれ、笑みを交わし合う。
僕の様子など誰も気を留めはしなかった。
あるいは。僕は思う。
自分もまたその幸福な一員であると思われているのかもしれない。
これから共に楽しい時間を過ごす相手の元に向かうのだろう、だとか、その前に何かプレゼントでも買おうと街に来たに違いない、だとか。
自分で言うのもなんだが僕は整った顔立ちをしているらしい。故に、数えるのも嫌になるほどにお誘いは受けている。誰かと過ごすことなど簡単なことではあった。
が。
これから先、自分が誰かとこの日を過ごすことは二度とないだろう。と僕は確信していた。

『もうあえない』

そんなメールを一通寄越したきり、綱吉は消えた。
僕が唯一愛していた人物。恋人、という関係ではなかったけれど。
ちょうど一年前、今日と同じ日のことだった。
仕事を終えた僕が彼のもとに行こうとした矢先に悪い冗談のようなその言葉が送られてきたのだ。
綱吉は僕に対して淡泊であったが、あるいはそれ故、そのような悪戯をすることはなかった。
僕は嫌な予感を覚えるも、プレゼントを持って彼がいるであろうマンションに急いだ。
そこは僕が綱吉に買い与えたものだった。
綱吉には様々なものを贈ったが、その中でも格別高価なものだ。
一度、話の流れで綱吉について喋ったことがあった。
特に親しいわけでもないが、仕事の関係上よく言葉を交わす、そんな男を相手に。
白蘭というその人物は何を考えているか分からないところがあったが、僕の話をひどく面白がっていたのは確かだった。
嵌まっちゃったね。言って男は笑った。

「は?」

「骸君って、あんまりそういうの興味ないのかと思ってた」

自分でも思っていたことだった。
綱吉に会うまで自分の生活を、あるいは自分自身までをも変えてしまう存在があるだなんて思ってもいなかった。
ただ、僕は幸せだった。
大学のために一人暮らしを始めたという彼に住まいを買い与えてやること、行く先々で彼に似合うからと言ってアクセサリーを買い与えてやること。
人はやり過ぎだ、だとか、異常だ、だとか言うかもしれないけれど僕にとってはごく当たり前のことでそれすらも幸福だったのだ。
それは綱吉を愛していたからでもあったし、愛しているが故の彼を自分のもとに繋ぎ留めて置きたかったという下心のためでもあった。
僕にとって、綱吉が傍にいてくれることだけが望みだった。愛して欲しいとまでは望んでいなかった。
綱吉が僕からの贈り物たちを捨てずにとっておいてくれている、それを見るだけで幸せだった。
また、彼とするセックスも好きだった。
勿論それがひどく心地好かったためというのもあったが、何よりも素晴らしいのはその間は恋人同士であるように錯覚できること。
綱吉にとってはパトロンへの代償行為というだけで愛など無かったのかもしれないけれど。
……それでも、良かったのだ。
いびつな関係なりに上手くやれていたと思う。
だから、彼からのメールの内容は信じられなかったし、彼の部屋が空になっていたのを見た時は目を疑った。
そう。何一つ無くなっていたのだ。
部屋にもともと備えつけられていたものやら僕が買い与えたものは除き、彼の物は全て。
綱吉の存在を窺わせる唯一の残骸は寝室の床に転がるダイヤモンドの欠片だけ。
それが自分の贈った首飾りの一部だということは分かった。
何故、こんな状態になっているのか。
何故、綱吉が突然自分から離れようと思ったのか。
まるで、わけが分からなかった。
以来、僕の日々は空虚だった。
何があっても感銘を受けることのない自分に、改めてどれだけ彼を愛していたかを突き付けられたような気がした。
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