‡short story‡

□玩具競売
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喧騒。
五千万、だとか六千万、だとか次々につりあげられていく金額。

――六千……、六千三百万!

誰かが叫んだ。ざわ、とどよめく会場。
これ以上の金額をご提示の方はいらっしゃいますか?あぁ、いらっしゃらない。では、落札です。おめでとうございます。
司会の男が儀礼的に締め括った。
その対象となった商品……壇上の少女は鎖から解かれる。そして、今し方落札したばかりの男が彼女を引き連れ去っていった。
もはや彼らのことなど誰も気にとめない。
皆の注意はすでに次の競売対象となる“品物”に向けられていた。
そんな浮き立つ空気の中、その男は冷静さを保ったままだった。嘆息するように深々と息を吐く。そのような姿も絵になるほど、男は美しかった。
壇上に並んでいた商品にも引けはとらない。

「退屈そうだね、骸君」

彼のいるテーブルに一人の男がやってくる。
白銀の髪が目を引くが、まだ若い。吊り上がった紫の瞳の下、刻み込まれた奇妙な模様。

「白蘭」

骸、と呼ばれた男はその人物の名前を口にした。
眉を顰めながら。
この男に関してあまり良い噂は聞いたことがない。
裏でも表でも、相当な権力を持っていることはたしかなのだが。

「君も玩具を探しに来たの?」

骸の様子など気にもせず、男はなおも話しかけてくる。
骸の正面の椅子に座ったところを見るに去るつもりはないらしい。
たしかにこのテーブルは舞台から近く“商品”を見やすいが。
多分、深い意味などなくて骸と同じテーブルにつくことにしたのは男の気まぐれに違いなかった。
まさかこんなとこまで来て秘書探しということはないでしょ、と男はクスと笑う。

「玩具」

骸が繰り返せば、そう。と彼は頷いた。

「性奴隷っていった方がいいかな」

あまりにも直接的な言葉だ。
骸はまた眉を顰めた。
たしかに骸は暇潰しの“玩具”を求めていたが。

「君は」

「うん。ちょうど壊しちゃったところでね、換えを探しにきたんだ」

白蘭にとって彼らは人ではなく、まさしく“玩具”でしかないのだろう。
如実にそれが感じられる言葉だった。
会場ではまたざわめきが起こった。どうやら次の品物が落札されたらしい。

「では、最後の商品に移りましょう」

男の声がマイクを通して会場に響いた。
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