‡REBORN‡

□死神
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どうか。
オレを助けて下さい。
この家から救い出して下さい。
でないとオレもあの人も狂気にのまれて死んでしまう。



彼にとって死神は気楽な仕事だった。
決められた時間までに決められた数だけ命を奪い秩序を保つだけで良いのだから。

ーあと1人、か。

白蘭は思う。
さて、誰に死を与えてあげようか。
そんなことを考えながら街をさまよう。
時間はまだあった。



死神に命を奪われた場合、その者は地獄と呼ばれる場所で永遠の責め苦を味わうことになる。
いくらその魂が崇高であろうと彼らに選ばれてしまえば行き先は1つしかなかった。
だから、生けるモノは全て彼らの注意を引かないように、と無意識に心掛けるのだという。

ー平和な街だな。

白蘭はあーあ、と伸びをした。
何も心惹かれるものがない。
ふと向こうの通りから歩いてくる少年が目について声をかけてみようと思い立った。
小学生くらいだろうか。
首に巻かれた長いマフラーがいやに印象的だ。

「ねぇ」

彼は白蘭の声を聞くだけでビクッとする。

ーあぁ……そういえば。

子どもは一番敏感な生き物だから死神と人間との違いにすぐに気がつくのだ、と同僚が言っていたっけ。
中には怯える様が愉しくてならないのだ、と言って子どもばかりを対象とする悪趣味な死神もいたような気がする。

「あの、僕急いでいるから……ごめんなさい」

少年は少し頭をさげるとすごい勢いで走り去っていった。
随分と大きな本を持っていたというのになかなかの芸当だ。
白蘭はその様子を目で追ったあと逆の方向へと歩き出した。



そこからしばらく歩いた辺りでおや、と白蘭は思った。

ーおもしろいじゃん。

すぐ近くにどろりとした濃い感情を感じたのだ。
白蘭は自分が殺す相手が善人であろうと悪人であろうと構わなかったがその強い“闇”に興味を抱いた。
建ち並ぶ家々の奥へ奥へと歩いていく。
進めば進むほど家は屋敷と呼ぶに相応しい豪奢なものへとなっていき、その闇もますます強く感じられるようになっていった。

「ここだね」

ついに1つの家に辿り着く。
何にも気がつかなければ美しい屋敷だと思うだけだったろう。
だが。
隠しようのない爛れた空気を白蘭はたしかに感じた。

「何か用ですか」

後ろから声をかけられた。
白蘭は振り向く。
控えめに称して綺麗な男が立っていた。
人間にしては珍しいオッドアイ。炎と氷の色。
穏やかで上品な雰囲気のある顔立ちだったが冷たい感じがした。

「ただの通りすがりだよ。何かじっと見られたら困るものでもあるわけ?」

彼がこの家の主人だろうと踏んでからかうように問うてみる。
一瞬だけ男の瞳は揺らいだが、さして表情に変化は見られなかった。

「見知らぬ人間に家の前に立たれて気分が良いはずないと思いませんか?」

質問に質問で返される。

「では、失礼します」

青年は軽く会釈をするとゲートの中に消えていった。

ーへぇ。

変わった人間だ、と思う。
興味深い、とも。
だいぶ不愉快な気分にしてくれた。
白蘭は唇の端を吊り上げる。
それだけで空気は張り詰め、すぐそばの電線にとまっていた鳥は一斉に飛び立ち、遠くで犬が吠え出すのが聞こえてきた。
いつものことだったから気にせず歩きだした白蘭だったが。
ふと、誰かの視線を感じたような気がして辺りに目を走らせる。
窓から覗く一対の目と視線が絡む。

ーあれ。さっきの家じゃん。

透き通った目だ。
光を映したような琥珀色。
思わず見とれそうになるがすぐにカーテンに隠れてしまった。
が、さっきの男のものではない、ということは分かる。

ーふぅん。

白蘭は目を細めた。
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