‡REBORN‡

□執着
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残った仕事を片付けなくては、とペンを握ればどうしてだかあの子の顔が脳裏をよぎった。
怯える顔と泣きはらした顔。
そういえば自分はあの子のそんな顔しか見たことがないのだ、と思う。

―まぁ、どうでもいいんだけど。

今は仕事を済ませることが先決だ。





家に帰ってもまだ兄はいなかった。
兄、といっても双子の片割れで歳は変わらない。
まぁ、お互い別々の高校を選んだため家を出る時間も帰る時間も違うのだが。
僕の方が遠い高校へと通っており、さらに風紀委員長としての仕事も終えてから帰ってきているのにそれよりも遅いなんて。
また、どうせ趣味の悪い遊びに耽っているのだろうと思うと溜め息が漏れた。
あの兄はどうにも変なのだ。
幼い時分から人の苦しんだり悲しんだりするところを愉しむようなところがある。
その血はしっかりと僕にも流れていて、僕だって人を傷付けない日はないのだが、それでも奴の遠回しなやり方は理解できない。
今のお気に入りは“人をつけまわすこと”らしい。

「それっていわゆるストーカーじゃない。くだらないね」

吐き捨てた僕に兄は首を傾げた。
その本性を知る僕でさえもつい見とれそうになるほどにそんな仕草が彼には似合った。

「僕は別に対象を愛しているわけではありませんよ」

―ただ純粋にその行為を愉しんでいるだけです。

兄は言って笑った。
自分が追われていることに気が付いた標的が怯え逃げる様が愉快でならないのですよ、といらない説明まで寄越してくる。
また、どうせそんな遊びにだってすぐに飽きて他のことを始めるのだろう、と僕は思っていたから適当にその場は流した。
けれども、僕のそんな予想は外れた。
その翌日も、またその翌日も兄はその行為と相手の反応についてうっとりと語ってきたのだ。
日頃冷静なだけあって妙な熱に浮かされたような兄は別の人間に見えた。
血の繋がった僕が言うのもなんであるが、兄は非常に整った顔立ちをしていると思う。
それなのに恋や何かには興味がなくてこんなことばかりに夢中になるなんて皮肉なものだ、と思わずにはいられなかった。





一週間が経っても未だに兄はその行為を続けていた。
しかも、対象は最初から変わっていないらしい。
珍しいことだった。
そのあからさまな執着と兄の恍惚とした様子にうんざりとして僕はついに言った。

「そんなに好きなら告白でもなんでもすればいいのに。普通のやり方をすれば君が断られることなんてないと思うけど?」

とりあえず裏さえ見せなければね、と僕は付け足す。
兄の外面の良さは舌を巻きたくなるほどなのだ。
馬鹿馬鹿しい、と兄は失笑した。

「僕が人に執着などするはずがないでしょう?」
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