‡REBORN‡
□殺人鬼〜狩猟編〜
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いよいよ十字路にさしかかった。
ここを通り越せば家はもうすぐだ、とツナはわずかに安堵する。
車のヘッドライトが見えないかどうかだけ確認していそいで渡ろうとした。
その瞬間だった。
身体に衝撃が走った。
「ッ!?」
なにが起こったのかよく分からないままに宙に浮いて地面に思い切り叩きつけられる。
―痛。
わずかばかり動く首を回してみればすぐ真横に車があってどうやら自分ははねられようだと理解する。
さいわい怪我じたいはかすり傷程度だがはねられたショックで身体がぐらぐらとして動かない。
バタリとドアが開く音がして人が降りてくるのが分かる。
大丈夫ですか、とでも言われるのだろうか。
―ちゃんとライトつけて下さいって言わなくちゃ……。
ツナは身体を起こそうとしたのだが。動きが止まった。
降りてきた男が愉しそうに微笑んでいるのが分かったから。
本能的に危険を感じる。
どうしよう。逃げなくてはと思うのに硬直した身体は動いてくれない。
「捕まえた」
男はさらにツナを絶望させるように言った。
そして、ぐい、とツナを引っ張りあげ軽々と抱き上げてしまう。
車内に押し込むつもりのようだ。
ツナは、といえば未だ状況が把握できずに困惑していた。
―どうして……?
自分はたしかに誰かに後ろから追われていたのだ。
それから逃げようと必死になっていたのにどうして横から車がきて……しかもその運転手は自分をさらおうとしているのだ?
疑問でいっぱいのツナの顔をみて男はうっとりと目を細めた。
ツナの戸惑いを愉しむかのように。
冷たい漆黒の瞳はツナを恐怖に引きずり込んでいく。
―こわい、よ。
悲鳴をあげることすらかなわない。
声帯は震えることを忘れてしまったようだった。
―あぁ。もしかして。
この彼が殺人鬼なのかもしれない、と思う。
こんなにも怖い人、それ以外に浮かばない。
―このままじゃ、連れてかれちゃう……。
ツナが思った時だった。
「何してんだよ」
ツナのよく知る声が闇の中、響いた。
風を切る鋭い音が聞こえて、瞬間、ツナは解放された。
地面に落ちて見上げたツナが見たものは蹴りかかるディーノとそれをよける男だった。
「……邪魔だな」
男はどこからか金属器を取り出してディーノに殴りかかる。
それをよけようとディーノがしゃがみ込めばその隙をのがさず男は車に乗り込んでしまう。
エンジンがかけっぱなしだったのかあっという間に車は走り去ってしまった。
ツナとディーノはただ見送ることしかできなかった。
「っ……畜生。ツナ、大丈夫か?」
ディーノはツナに手を差し伸べながら聞く。
「あ、うん。……ありがとう、来てくれて」
ようやく声がでるようになった。ツナはディーノの手を借りて立ち上がる。
「ったく。夜は出歩くなっていったろ」
「ごめんなさい。……オレ、男だし、大丈夫だって思ってて……」
馬鹿みたいだ。
そのせいでディーノにまでも迷惑をかけてしまった。
「もう絶対一人で出歩いたりするなよ。今日オレが迎えにいけばよかったのにな……、本当にごめんな」
ツナは首をふる。
とても、怖かったけれどそれはディーノのせいじゃない。
彼のおかげで自分はここにいられるのだし。
「さっきの車の人は……あの殺人鬼なのかな……?」
「さぁな……。ツナを追いかけていたのはアイツとはまた別なのか?」
「はい。あの人はいきなり横から現れて……」
自分を跳ねて連れ攫おうとしただけ。
それを聞いてディーノは眉を顰める。
最初、ツナを後ろからつけてきていたのと車ではねてきたあの男はそれぞれ別の目的だったというよりは組んでいるという方が可能性は高い。
追いかけられているということを気が付かせることにより精神的に追い詰め半ばパニック状態に陥り周囲への注意が疎かになった標的を車ではねて動けなくなったところを攫う?
―愉しんでいるのか。
標的の怯える様を。狂いそうになっている様を。
そういう奴は自分の“遊び”にこだわりがあるだろう。
―厄介なのに目をつけられちまったな、ツナ……。
奴らは目的を成し得るまで満足しないだろう。