‡REBORN‡

□電話相談
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電話が鳴った。
僕は即座にそれを取り、穏やかな声で自分の所属する職場名を告げる。
そして、相手が話し出すのを待った。
それが僕の仕事だった。
そうすることによって子どもをいじめや虐待から守るらしい。
フリーダイヤルで24時間年中無休、彼らの電話を受け付け話をきいてあげるのだ。
当然のことながら悪戯電話も多い。
さて、今回はどちらなのだろう、と思う。
相手は無言だった。
小さな息遣いだけが聞こえてくる。

「どうかしましたか」

思わず問いかけてしまった。
電話越しにも相手が震えたのが分かって焦る。
もし切られてしまっては元も子もない。

「困ったことがあるのならば何だって話してくれて構わないのですよ」

僕は慌てて付け足す。
これは真剣なものかもしれない、と直感していた。

「……おでんわがつながったからびっくりしちゃったの」

ようやく受話器から声がもれてきた。
どことなく舌足らずで不覚ながら可愛い、と思ってしまった。
電話が繋がって驚いた、ということは適当にダイヤルを押したらたまたまここの番号だったということか。
子どもがかけやすいようにと簡単な番号にしてあったのが幸いした。

「おにいさん、おれのはなしきいてくれるの」

「えぇ」

いちいち話し方も声も可愛いらしい、などと思う。
おれ、ということは男なのかもしれないが愛らしいことに変わりはない。
早く声が聞きたい、と続きを待つ。

「あのね、おにいちゃんにいたいことされるの」

彼の言葉に僕は眉を顰める。
家庭内暴力、という言葉が脳をよぎった。
いや、単に年上の男という意味で用いているだけかもしれない。
どちらにせよ、暴力という点で問題だ。
とにかく情報が少なすぎる。
もう少しよく聞かなければ。

「おにいちゃん?では、君のお父さんやお母さんはどうしているのですか?」

踏み込みすぎたか、とひやりとするがすぐに

「いないよ。おにいちゃんしかおうちにいないの」

との言葉が返ってきた。
死んでしまったのか。
もしくは子を置いて家出?
色々と問題はありそうだ。

「君はおにいちゃんから逃げようとは思わないんですか?」

ふと疑問に思い問いかけてみる。

「うーん。まえね、そとにでようとしたらすごくおこられたの。ぼうみたいなのでおれのこといたくしたんだ。だからねもうしませんっていっちゃったの」

道具まで用いるなんて随分と卑劣だ、と思う。
自分よりも小さな存在を道具を用いて殴りつけるなんて。

「しかし……、今その人は近くにいないのでしょう?」

電話ができているということはそうに違いない。
今のうちに逃げ出した方がいい、とほのめかしたつもりだった。
けれども、彼がううん、と首を振った気配が伝わってきた。

「てにつめたいのがぐるぐるしててとれないの」

立派な監禁ではないか。
僕は警察に電話した方がいい、と言おうとした。
そして、気が付く。
きっとこの子はその番号すらもしらないのだ、と。
ひゃくとうばん、ですよ。と言おうとした、が。

「あっ、おにいちゃんがかえってくる!!」

と言う声とともに電話は切れてしまった。
止める隙すらなかった。
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