‡REBORN‡
□愛玩人形
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父親がどこからか“人形”を拾ってきた。
それはまだ小さくて、見知らぬところに連れてこられたことに怯えているのかわずかに震えていた。
それを見ながら、可哀相だと思うわけでも、大丈夫だろうか、と思うわけでもなく、ただ甘そうな髪の色だなぁ、とディーノは思った。
少し考えて、いつも朝食のテーブルに並んでいる蜂蜜に似ているのだと気がついた。
ディーノの視線が気になるのか伏せられていた顔があげられた。
その瞳にディーノは見とれてしまったのだった。
綺麗な琥珀の色。
琥珀は中に虫を閉じこめているけれども、人形の瞳は濁りなく澄んでいてその奥までも覗きこめてしまいそうなほどだった。
「なぁ、親父」
ディーノは言った。
「コレ、オレの“弟”にしてもいいか」
言いながらもその目は人形に釘付けだった。
「欲しいのか」
父の問いに躊躇いなく、あぁ、と頷く。
その様はさながら神のようだった。
少なくとも人形はそう思った。
自分の思い通りにならないものなどないのだ、という絶対的な確信が見え隠れしている。
無理もなかった。
彼は侯爵家の跡取りなのだ。
美しく、権力もあり暇を持て余している青年貴族の1人だった。
人形には彼に跪くことしか許されないのだ。
「おまえ、名前はなんて言うんだ?」
ディーノは人形に尋ねた。
「……ツナ」
人形は気圧されたように相変わらず震えながら答える。
それもそうだろう。
彼にとってディーノはすれ違ったことすらないような遠い人間なのだろうから。
着ている服からしてもツナ、と言うこの人形は下級町民だった。
「ふぅん、ツナか。オレのことはディーノって呼べばいい」
ディーノはにこやかに言った。
「でぃーの?でも……、あなたは侯爵様なんでしょう?」
戸惑ったように揺れるその目が愛らしくてたまらなかった。
「今日からおまえはオレの弟になるんだよ。“御主人様”って兄弟に呼びかけてたらおかしいだろ?」
しゃがみこんで彼に目の高さを合わせてやりながらディーノは言う。
「おにいさん……」
パァッとツナの瞳は輝き、頬は上気した。
あまりに単純で、疑うことを知らない。
なんて可愛い可愛い、……可哀相なお人形。
ディーノは知らず微笑んでしまっていた。
「そう。じゃあ、今から部屋に連れて行ってやるから。服とかも用意してあると思うぜ?」
「はい」
ツナは嬉しそうに頷いた。
素直なお人形はディーノのお遊びに丁度よかった。
けれども、ツナはそんな彼の思惑には気がつけないのだった。